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モアナと伝説の海で学ぶ「ロングポーズ」

今回のテーマは”モアナと伝説の海”で学ぶ「ロングポーズ」
モアナと伝説の海はロングポーズと呼ばれる空白の時代にインスパイアされた作品です。
ロングポーズについて知ることでより深く作品を知ることになるでしょう。

作品紹介

あらすじ

モトゥヌイ島の伝承の一つに、このようなものがあった。

時は1000年前。女神テ・フィティの「心」には命を創り出す力があり、海しかなかったこの世界に島、植物、動物を誕生させた。同時にその心はあらゆる悪党の標的となる。ある時、変身自在の半神マウイは島として鎮座するテ・フィティから心を盗み出すが、逃げる最中に同じく「心」を求める溶岩の巨大な悪魔テ・カァの襲撃を受け、マウイはテ・フィティの心を海の奥底へ落としてしまう。テ・フィティの心がなくなったことで世界は闇に包まれ始める。しかし、世界が闇に覆われ尽くす前に、海に選ばれし者が現れ、珊瑚礁を超えてテ・フィティの元へ心を返しに行く。
この話を祖母タラから聞かされて育ったモトゥヌイの村長(むらおさ)の娘モアナは、幼い頃から珊瑚礁の向こうの海に関心を抱いていた。しかし村には「珊瑚礁を超えてはいけない」という掟があり、父のトゥイも掟を守り、娘にも同じことを要求した。幼いモアナは砂浜で意思があるかのように振る舞う波と、緑色の石を目にするが、成長するにつれてそのことは忘れ、次第に将来の村長としての自覚も大きくなる。それでも、海への好奇心は抑えられずにいた。

解説

ポリネシアの地理

モアナたちが暮らしていたモトゥ・ヌイ島はポリネシア地域のどこかです。
この島自体は架空の島ですが、実は同じ名前の島がイースター島の近くにあります。
イースター島はポリネシアの言葉でラパ・ヌイと言い、”広い大地”を意味します。そしてモトゥ・ヌイは”広い島”という意味です。
実はイースター島も”モアナと伝説の海”のモチーフのひとつになっています。

https://polynesia.jp/park/polynesia/より引用

ロングポーズの始まり

ポリネシア人の祖先はラピタ人と呼ばれ、紀元前 3000〜 1000 年頃に台湾からフィリピン、インドネシア東部を経由して、紀元前 950 年頃にサモアやトンガのあたりに到達しました。
しかし、ここからラピタ人の東への移住の動きは一旦止まります。
そして、約1000年間の「休止」を経て、再びポリネシア中部と東部への移住が始まりました。

この1000年もの長きにわたる休止を「ロングポーズ」と言います。
”モアナと伝説の海”で語られる通り、ロングポーズの期間は資源が豊富で近隣諸島や島内での争いのない平和な時代だったのでしょう。

南国というとおっとりした性格のイメージがあるかもしれませんが、実は暴力はポリネシア文化に常に存在する要素でした。これは口承文学や伝統的な生活のあらゆる側面に反映されています。
親族間や部族内での攻撃はある程度までは許されていましたが、儀式上の禁止事項や社会規則に違反した場合の罰には、儀式の生贄にされたり、死刑になることも多かったといいます。部族間の争いは、特に人口が増えて、利用可能な資源を超え始めたときに、激化しました。

ロングポーズの終わり

ロングポーズが起きたことは考古学的に間違いないそうです。では、なぜロングポーズが解除されたのか。
「銃・病原菌・鉄」で知られるジャレド・ダイアモンドは著書「文明崩壊」の中でエコサイド理論という仮説を唱えました。

エコサイド理論ではイースター島でのモアイ像の建造が環境悪化の一因となり、極端な森林伐採(エコサイド)が生態系を不安定にし、人食いが起こったとしています。
同じようなことが当時のポリネシア西部で起きて、それから逃げるために東への航海を始めたのかもしれません。

エコサイド理論

イースター島への入植から17世紀までの間モアイは作られ続けましたが、18世紀以降は作られなくなりました。モアイを作り、運び、建てるためには大量の木材が必要で、伐採によって森が失われました。
森が失われると、土地は栄養を保持できなくなり海に流出します。やがて、土がやせて農作物が育たなくなり、食糧不足に陥ります。また、大きな木も育たなくなり家屋やカヌーの材料となる木材までもが不足します。
やせた土地は海に栄養を供給できないため、周辺の海洋生物にも影響を及ぼします。プランクトンの生育に必要な栄養がなくなり、それらを食料とする魚たちも減っていきます。
深刻な食糧不足はやがて、耕作地域や漁場を巡る部族間闘争へと繋がっていきます。

その後、「モアイ倒し戦争」と呼ばれる争いが起きました。モアイは目に霊力(マナ)が宿ると考えられていたため、相手の部族を攻撃する場合、守り神であるモアイをうつ伏せに倒し、目の部分を粉々に破壊しました。

この争いは50年ほど続くことになり、ヨーロッパ人が到達したときは島民の生活は石器時代とほとんど変わらないものになっていたと言います。

破壊と再生の象徴

作品にはテ・フィティという恵みの女神とテ・カァという火山を擬人化した破壊神が登場します。
テ・フィティは良い神、テ・カァは悪い神と思われていましたが、物語の後半でテ・フィティとテ・カァは同一の存在であったことが分かります。

これはつまり、火山活動によって島が誕生して、その後に植物が成長することのメタファーとなっています。

島は元々大陸の一部だったところが、海面上昇により発生することがありますが、火山活動により島が作られることもあります。火山噴火はそこに住む人々にダメージを与えるものと思われますが、一概にそれだけとは言えません。火山の噴火により地底から栄養が地表に出てくることにより土地が肥沃になります。
一時的に焼け野原になりますが、その後は緑豊かな土地へと変身するのです。それこそがテ・フィティとテ・カァの関係性を表しています。

火山島以外についてはエコサイド理論で説明したように資源不足に陥る可能性が高くなります。
大陸に近い島であれば偏西風に乗って栄養分が運ばれてきます。あるいは、渡り鳥が栄養を運んでくることもあります。
ポリネシア東部は偏西風も届かず、渡り鳥の休息地にもなっていないため、そもそも栄養不足に陥りやすい地理であると言えます。

まとめ

ロングポーズはポリネシア人が航海を止めていた謎の空白の期間。そして、「モアナと伝説の海」はロングポーズの始まりと終わりにどんな事件があったのかを想像した作品になっています。
テ・フィティとテ・カァもポリネシア人にとっては恵みと破壊をもたらす神であるという神話的な物語でディズニーの作品の奥深さを感じさせる素晴らしいストーリーでした。音楽も素晴らしく、ポリネシアの空気を感じます。

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