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第1の引っ越し

18歳の時。
人生で初めての引っ越しを経験した。
生まれ育った地元から、
大学進学を機に一人上京することが決まった。


引っ越し前日。

全ての荷造りを終え、あとは明日を待つだけ。
18年間一度もしたことのない、トイレ掃除もした。
大掃除の時でもここまでやらない。
3時間かけて、トイレ掃除をした。

こびりついた汚れを落としながら、
今まで自分がいたことを削り落としていくような感覚があった。

トイレの扉に貼っていた手書きの元素の周期表を捨てた。
苦手で何度も覚え直した古文漢文の単語表も捨てた。
捨てることに抵抗はなかった。

新しい自分になる

そんな決意をしているような気分だった。

きれいになったトイレを見て、
母は呆れるように怒った。

こんなこんしちょし!!
(こんなことしないで!の意)

なんだか寂しそうな嬉しそうな複雑な表情だったが、
その時の私にはその真意はわからなかった。


夜中に目覚めた。

初めての引っ越しに興奮気味だったのかもしれない。
居間から母の声が聞こえる。

おえっ

って言ってる。

40代も後半になると、更年期もいよいよだな、
と思っていたら、どうも様子が違う。


泣いてる??



息子の船出を思い、
心配、不安、期待、喜び、期待、不安、心配、心配、心配………

様々な思いよりも何よりも心配だったんだろうと思う。


翌朝。

ばあちゃんが泣きながら、起きてきた。
最後の朝めしを食べている私は困惑。
夜中に散々泣いていた母は、呆れ顔。
父は、洗車。
妹は、不機嫌。

それぞれの思いが

それぞれの方向に向きすぎていた。


初めての引っ越し。

引っ越しは、住む場所を変えることではない。
それまでの人生で、自分が手にしてきたものを分類することなのかもしれない。

もっていけるもの

もっていけないもの

残すもの

捨てるもの


ヒト、モノ、コト、思イ、


いろんなものを分類するのが、「引っ越し」なんだ、と

18歳の春に思った。

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