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盗人猛々しいがゲシュタルト崩壊する教室にいた記憶がある。

その昔、自分のものと他人のものの区別がつかない人間を、小学校の担任に持つという地獄を味わった。クラスの悪ガキ軍団が近所の専門学校の敷地内にあるバスケットコートを勝手に使っていたことがバレて学校に苦情が来ようが、団地の敷地内にある許可がないと入れない場所で勝手に遊んでいた女の子達が管理人さんに叱られようが、全部「普段使ってねえんだから別にいいだろ」で片づけていたし、先生が「ちょっと借りるよ」「ちょっと見せて」と持っていったものは、言わなければ返してくれない。問い詰めたところで「お前がくれるって言ったんじゃねえか」「まぎらわしい物言いは慎め」と、あくまでこちらの言葉足らずだということにして、親にまで居直るのだからタチが悪い。そして、取り返したものはだいたいホコリまみれになっていて、先生が子供から物を取り上げることだけが目的だったと、嫌でも悟る羽目になるのだ。

もしかしたらこの人、教員免許がなかったら窃盗や恐喝の常習犯として日常的に警察のご厄介になっていたのではないかと、今になって思う。教室内の教材や備品がいつのまにか消えていることはよくあったし、私の道具箱から消えたハサミが、ご丁寧に名札がはがされた状態で先生の机から発見されたこともあった。それに、私の体操着の袋からブルマだけ消えるという怪奇現象が起こったときも「なくしたに決まってんだろ。誰がブスのブルマなんか盗むんだよ。思い上がりも甚だしい」とまくし立てた挙句「ブスのブルマ盗んだ物好きがいるってブスが主張してんぞ」とあちこちに吹聴していたことも、今思えば怪しすぎる。真相を突きとめる手段はないし、今更追及したところででどうにもならないけど「失くしたとしても不注意だし、盗まれたとしても悪趣味ですね」と、笑い話として学級通信に載せるというのは、セクハラ以外の何物でもない。

こういう人だから、子供が描いた絵に手を加えるとか、読書感想文を原型をとどめていないレベルで改ざんするとか、そういうことも日常茶飯事だった。他にも、Aさんが作ったものをBさんが作ったことにして廊下に並べるとか、Cさんのデザインを盗んだDさんの作品を褒めたたえたあげく「盗まれたうえに盗んだほうより出来が悪いとか、みっともねえ」とCさんを嘲笑するとか、そんなんばっかり。何を追及されたところで「俺が人前に出せるレベルにしてやったんだから文句を言うな」の一点張りである。学校からもらった文集を開くやいなや「すごいねこれ、一組のところ全部先生が書いたやつだよ」と呆れ果てていた子がいたぐらいには、先生の改ざん癖は教室内では周知の事実だった。説明する手段がなかったというだけで。そりゃそうだ、本は週刊少年ジャンプしか読まないと豪語するぐらい活字嫌いの先生が、図書室から「教育上よくない」と判断した本を勝手に本棚から抜いて、カウンターの引き出しの奥の奥という「それはエロ本の隠し場所では?」という場所に隠したあげく、運悪くその本を発見してしまったうえに先生が隠したことまで悟ってしまった子に「お前は図書委員やるぐらい本が好きだから、独り占めしようとして隠したんだろう。そのくせに人を泥棒呼ばわりとは、盗人猛々しいってのはお前のことを言うんだよ」と、公衆の面前で泥棒呼ばわりしたという事実を、小学五年生がどうやって大人に説明できただろう。盗人猛々しいのはどっちやねん。

大人になった今だから、こうやって言葉にすることはできる。ただ、こういう小学校の教室という密室で行われる犯罪行為(いじめ含む)って、当人がきちんと言葉にできたとしても、もうすでに時効が成立していますということが、悲しいかな多いのだ。そして、今はネットを使えば何でも調べられるので、あの盗人猛々しい教師が今もなお教壇に立ち続けていることも、軽い気持ちで知ることができてしまう。だからこそ、この人からいろんなものを巻き上げられたことも、日常的に外見や特性を笑いものにされていたことも、卒業間際にいじめを告発したとき、放課後に誰もいない教室に連れ込まれて「お前は俺の教師人生最大の汚点だ。今すぐ訴えを取り下げろ。取り下げないなら今すぐ事故っていなくなれ」と恫喝されたことも、すべてにおいて証明する手段が何もないという現実に、時々打ちのめされそうになるのかもしれない。

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