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「ひどい話」と定期的に向き合うのは自分を大事にするための手段のひとつだ。

「体育の授業で『足手まとい』と呼ばれた」「私と仲良くする子が転校する確率が高いからと『俺のお気に入りをこれ以上飛ばすな。むしろお前がいなくなれ』とののしられた」「ひっかけ問題にひっかからなかったら『さすが脳みそしかとりえのない人間は違うな』と嫌味を言われた」
「運動会のチアに立候補したら『お前冗談で言ってるんだよな?お前鏡見たことねえのか?なあ冗談だって言ってくれよ』と謎の懇願をされた」「卒業生を送る会の重要な言葉が私に割り振られていることが気に食わないと、自分のお気に入りの子に譲るように繰り返し圧力をかけられた」
「炎天下の学校行事で熱中症になっても『学校が救急車を呼ぶなんて世間体が悪い』という理由で放置された」「いじめを学校に訴えてクラスを変えてもらった直後『君は一組のけいこさんですか?二組のけいこさんですか?あ、そうか、けいこさんなんてさいしょからいませんでしたー』とすがすがしく歪んだ笑顔でからまれた」

事実を並べるだけで胃が痛くなってくるこれらの話は、私が小学校の頃に担任教師から受けたいじめのほんの一部だ。こいつに教員免許やった奴出てこいという話のオンパレードだけれど、当時の私に疑問を持つという選択肢はなかった。そもそも、この人は「はい」と「いいえ」に嫌味を言うことはあれ、怒ることはあまりない。でも「なぜ?」「なんで?」「どうして?」を態度に出したが最後、烈火のごとく怒りだして相手とその周辺にネチネチ当たり散らすか、連帯責任モードを発動させて「お説教」を始めるかの二択なのだ。とにかく自分のやることに口を出されるということが許せない、この身勝手な担任教師に対して生徒ができることは「なんで?」が露見するまえに「えー?」と絶叫してすべてをごまかすことぐらいだった。もし「えー?」がだめだったときは「マジかよー」「やーだー」「うっそー」「ひっでー」と、これまた白々しいリアクションを連発していれば、そのうち終わる。先生と違って生徒のほうはきちんと学習するのだ。結果として「先生の代わりに疑問の芽を叩き潰す自警団を結成する」「先生も自警団も敵に回したくないので、他に矢印を向けやすそうな子を見つけて売り渡す」「いざというときのために必要以上に恩を売っておく」などという、人の道から外れた処世術が量産されていくことになった。

その日の天気より先生の機嫌。そんな毎日は幼稚園の時からの日常で、先生の機嫌ひとつで怒鳴られたり、ぶたれたり、時には教室から締め出されたりするのが普通だと思っていた。声のでかい同級生に逆らうことは先生「が」許さなかったし、その子たちから逃げようとして足をすべらせ、階段から転落して怪我をしたときも「けいこさんの不注意」というていで押し切られたことすらある。小学校にあがってからもそういう環境は変わらず、親の職業で生徒を値踏みする当時の担任の露骨さに耐えられず、花壇に咲いている花にひとつぐらいファイアフラワー混ざってないかなと本気で思っていたぐらいだ。そこに前出の担任がやってきたのだけれど、それによって何かが変わったとか、ひどくなったとか、そういう感覚はなかった。ただ教室内での序列が露骨に外見で決まるようになったというだけの話で。理由はどうあれ迫害されることがわかっている人間にとって、迫害の基準が変わったところで大勢に影響はないし、教室はいつだって地雷原だ。あれから四半世紀がたった今でも「先生が喜びそうなネタ」を本能的に回避する自分がいることに気づいて定期的にげんなりするし、地雷原を突破した経験そのものが人生における地雷になるなんて、ただただ笑えない。

こうやって「あれはひどかったな」と文章に書けるぐらいには、自分の中で消化はできているのだろう。ただ「ひどい話」には、自分や世の中の変化と同時に、別の角度から「あれ『も』ひどかったよね?」と聞いてもいないのに問いかけてくるというはた迷惑な特性がある。最近は「あの教室に法治国家の常識を当てはめてはいけない」でそれなりに回避できるようになったとはいえ、やはり定期的に吐き出さないと、自分が持たない。だからこそ、誰かのため、何かのためではなく、まずは自分のために、こうやって文章を書くことにした。去年、新宿へとあるアーティストさんのリリースイベントを見に行ったとき「その時の自分の気持ちに向き合わずに発した言葉は、結局自分にも他人にも嘘をつくことになってしまうし、そういう人の言葉は響かないと思った」と、その時のご自身の葛藤を歌詞に書ききった話にすごく感銘を受けたのだけれど、自分と向き合うために「書く」行為、勇気を出して苦しかった話を「書く」行為を嘲笑する人に対しては、私はいつも心の中でキャノンスパイクのコマンドを入れていますよということだけ伝わればいいのです。

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