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【1時間で爆速上達する】アニソンDJの思考法

アニソンDJをしております、ふくゐちゃんです。

このnoteのテーマは「どうやったらいいアニソンDJになれるのか」。現場で約10年間コツコツ学び盗み考えてきた、誰も教えてくれなかった「アニソンDJとは何をしているのか」を体系化しています。

これからアニソンDJを始める人、最近始めた人が、基本となる考え方を超速で押さえて、見たことのないプレイを生み出すきっかけになれば嬉しいです。対象は、10年前「へぇ、このDJいい繋ぎするじゃん」と繋ぎばかりにこだわって何もわかってなかった駆け出しアニソンDJの僕です。

僕は現在、アニソンディスコという日本一のアニソンパフォーマンスDJグループに所属しています。東京大学在学中に(クイズやってればよかったのに)アニソンDJとしてのキャリアをスタート。過去には、U-25の全国アニソンDJコンペや複数の有名イベント公募で優勝。イギリスのジャパンフェスにゲスト出演するなど海外公演も果たし、全国のお祭りやアミューズメント施設での各種イベントでもプレイ。「ハム太郎サークル」というアニソンDJ界隈発のおもしろ現象の生みの親でもあります。

と、派手に書いてますが、普段はサラリーマンをしており専業DJではありませんし、数々の先輩を差し置いて「いいアニソンDJとは何か」なんて偉そうに記事書いていいんかと戦々恐々としております。ひとつの考え方として、どうか寛大な心でお許しください、先輩方......。

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2020年は、アニソンDJにとっても苦難の年でした。しかしその中でも、美少女DJコンテンツ『D4DJ』も立ち上がり、全国のクラブが手をとったオンラインDJイベント『MusicUnity2020』でアニソンDJが多くの人の目に止まる機会も生まれました。
2021年は、アニソンDJをやってみたいという人がきっと増えるのではないか。いや、増えて欲しい!そしてもっともっと面白いアニソンDJが見てみたい!と思ってこのnoteを書くことにしました。

いいアニソンDJは、当然何かを選択的にプレイしているから、いいアニソンDJであるはず。では、その選択とは何なのか。できる限り解き明かしていきたいと思います。

【お約束】
1.(読み方)
枕詞的ですが、ここに書かれていることだけが正解ではありません!あくまで僕自身が思ういいDJを前提としたときに、ベースになる思考法です。(こういう考えの人もいるんだなぁと思って、何卒怒らないでください!)
2.(読まない方がいい人)
DJ以外の方は、ある種ネタバレ的になってしまうので、純粋にアニソンDJを楽しみたいという方は「読まない」ことをオススメします
3.(触れないこと)
機材やDJソフトの細かい使い方や練習方法は解説していませんDJとしていかに現場に出るのかといったプロモーショナルな面も触れません。このnoteが好評であればどこか別の機会で!
4.(用語定義)
このnoteでは、アニソンDJはDJプレイ自体を指します。アニソンDJをする人は、DJと呼びます。
5.(支援について)
有料記事ですが、99.9%無料部分です。内容を読むために、課金は必要ありません。もし読んでみて勉強になったなと思ったら記事を購入して支援いただけたら嬉しいです。

前置きが長くなりましたが、行ってみましょう!!

1.いいアニソンDJに共通するたった一つのことは?


いいアニソンDJは、なぜ感動するのか?

今、全国にはアニソンDJをするたくさんのDJがいます。そして、全国のクラブで、夏フェスで、オンライン配信で、その様子を見ることができます。その中で「ああ、今のプレイは本当に良かったなぁ!」「また絶対聴いてみたい!」と感動するような「いいアニソンDJ」に出会うことがあります。

ここでひとつ考えたいこと。アニソンDJを、感動する「いいアニソンDJ」たらしめているものは、一体何なのでしょうか?

なぜ同じアニソンという楽曲を使いながら、目が離せないほど釘付けにされるDJと、そうでないDJが存在するのか?なぜ特定のDJは、毎回違う曲を使っているのに、何度も神がかったプレイを再現できるのか?そこには何か秘密があるはずです

いきなり答えから始めます。

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「はぁ、ストーリー?概念的な話じゃなくて、はよテクニック教えろ!」とお怒りの方もいるかもしれません。すみません…...。

ストーリー構成と言われてもピンとこないかと思います。少し我慢いただき、いいアニソンDJを考える前に、目線を合わせるために「アニソンDJとは何か?」から整理できればと思います。

時間芸術には、人を感動させる「法則」がある

アニソンDJを定義するなら、以下のようになります。(あくまで個人的な考えです!怒らないでください!)

アニソンDJの定義:
アニソンを使用したDJプレイによって、フロアの体験をつくる時間芸術

時間芸術というのは、ざっくり言うと「時間によって変化する表現」のことです。ダンスや文学、音楽、演劇などが当てはまります。アニソンDJの持ち時間のほとんどは30-45分。その限られた時間の中で、「DJの身体」と「アニソンという音楽」を使って、フロアに集まっていただいた観客を全力で楽ませます

時間芸術の中で、30-45分という時間感覚は、短めの映画やテレビドラマ、演劇などと似ています。ストーリーがあり、泣いたり笑ったりできるものです。

あまり知られていないことですが、いいストーリー構成には、それをいいものたらしめている「法則」があります。(もし関心があれば、『SAVE THE CATの法則』などの脚本に関する書籍が参考になります)

いいアニソンDJは、いい映画やいい演劇と同じく、いいストーリーがある。そして、そのストーリー構成には感動させるための「法則」があるのです。

2.「王道構成」でアニソンDJは劇的に面白くなる

王道構成は4つのパートでできている

いいストーリー構成というのはいくつもあるのですが、「王道」と呼ばれる構成があります。王道なんてつまらん!なんてことはありません。当然、みんなが面白いと思うから王道なんです!

王道構成の基本はこちら。(超ざっくりまとめています!怒らないでください!)

王道ストーリー構成の基本
第一部:設定 
冒頭から関心を集めるフック。主人公の状況説明と物語に入るきっかけ。
第二部:冒険 
新しい世界で葛藤しながらも前に進んでいく主人公に共感を集める。
第三部:問題  
超どん底。大ピンチに陥る。もうダメかもしれない。先を読めなくする。
第四部:解決 
主人公のこれまでの行動が結実し、問題を解決する。

映画『君の名は。』が、THE王道構成ですので参考にしてみましょう。(ネタバレです!)

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「君の名は。」の王道構成
第一部:設定 
新海監督の美麗美術とRADWIMPSのOPでフック。ど田舎の三葉と都会に住む瀧くんが、入れ替わってるらしい。『夢灯籠』
第二部:冒険 
なんやかんや入れ替わりの状況を受け入れてお互いに楽しい日々を過ごす。『前前前世』
第三部:問題
 実は3年前の隕石の事故で三葉は死んでいた。もう一度入れ替わりたい。
第四部:解決 
入れ替わりを果たして隕石から町の人々を救う作戦を立てる。かたわれどきの再会。2人は町は守れるのか!?『スパークル』『なんでもないや』

この区分と全く同じではないのですが、実際に新海監督も、映画制作時に観客の感情と時間を軸にとって体験の検証しているそうです。

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アニソンDJのストーリー構成の「王道構成」

実は、アニソンDJの王道構成も、さきほどの王道構成と同じです。縦軸にフロアの盛り上がり/テンションの高まり、横軸にプレイ時間をとります。

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もちろんこれはあくまで基本であって、DJMIXでのDJ公募などでは審査員にテクニックを見せるために、あえてより複雑な構成にすることもあります。

より具体的にアニソンDJの王道ストーリー構成の中身を見ていきましょう!こちらも大きく4つのパートで構成されます。

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① つかみ&自己紹介

「つかみ」は、とにかく観客の集中をDJである自分に向け、これからこのDJを見ておいた方がいいなと緊張してもらう空気感づくりです。ここが失敗してしまうと、もう一度関心を向けさせるのはなかなか難しくなります。上手な人を見ていると、入場曲やスタートの曲を決めている人も多いです

「自己紹介」は、自分のプレイではこんな面白いことがありそうですよという「楽しみ方の提示」です。これが好き、このラインが僕は面白いとお思っている、こういうアニソンの楽しみ方がある。これから約40分、どうやって自分のDJを楽しんでもらったらいいのかを、数曲で示します。

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② 実践&盛り上げ

「実践」は、「自己紹介」で提示した楽しみ方で、実際にフロアの観客に楽しんでもらう時間です。自分の感覚やテクニックを詰め込んで、とにかく右肩上がりの「盛り上げ」に徹します

まだアニソンDJの楽しみ方がわかっていないという人もいることを想定して、できるだけグルーヴ感を意識して、音楽自体に乗れるようにするとテンションを持ち上げていきやすいです。

BPM(曲のテンポ)を徐々にあげる。ソウルなどの横ノリからロックなどの縦ノリに。などで徐々に盛り上げ、この時点で可能なピークまでフロアの一体感を高めます。ここでしっかり温めておかないと、次の「外し」「落とし」が効いてきません。

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③ 外し&落とし

ここまでの盛り上がりの熱量は保ったままに、1-2曲だけ雰囲気をガラリと変えます。これを「外し」もしくは「落とし」と個人的に呼んでいます。基本は、アッパーになっていた感情の振り子を、一気にエモーショナルな方向へと振り抜きます。「なんだ?」「何が起きたんだ?」という感じなりますが、それで再び、フロアの集中力が高まります。

いきなりバラードをぶち込んでもいいですし、穏やかなインストにするという手まであります。ポイントは必ず下方向への変化にすることです。次の展開に向けての準備です。

ここでエモーショナルな展開を持ち込むと、フロアの頭に「エモーショナルな流れもあるんだ!」という選択肢が生まれます。これが、クライマックスでも効いてきます。

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④ クライマックス

ここまできたら、あとはもう駆け上がっていくだけです。「クライマックス」の役割は、前の「落とし」でたどり着いた低いところから一気に高いところまで上げていくことで、「とても盛り上がった」という印象を残すことです。

ここでの盛り上がりというのは、単純にBPMが早いとか、派手であるとかそういうことだけではありません。感情の高まりです。アニメで言えば「行けえええええ!」と涙まじりに叫びたくなるところ、ずっと見たかった景色が見れてハッとするところ。個人的には、疾走感がありつつも、歌い上げるようなエモーショナルな楽曲でまとめることが多いです。

ラストにダメ押しの1曲を入れるということもあります。イメージとしては24時間テレビの『サライ』、紅白歌合戦の『蛍の光』、アニソンで言えば『M@STER PIECE(THE IDOLM@STER)』的な楽曲です。満足感とエモさをプラスできます。

この最後の盛り上がりで、「いいアニソンDJだった!」という記憶に残るような感動が生まれるのでとでも大事です。よくお笑いのM-1の審査で「最後もうグッともうひと上がり欲しかった」というものがありますが、アニソンDJの完成度の印象も大部分ここで決まります。

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根本的なことですが、アニソンDJは人の曲でDJをします。なので、あくまで「アニソンを使わせていただいている立場」です。そのアニソンを使って、お金をもらってプレイするということは、アニソンをランダム再生するのでも、アーティスト本人が歌うのでも達成できない「+αの価値」をつくらないといけませんその+αの価値の大きな一つが「DJがつくるストーリーとそこから生まれる感動」だと僕は考えています

王道構成だと他の人と同じ感じならないか心配?

王道構成にすると人とかぶるんじゃないかと思う人もいるかもしれませんが、心配無用です。同じ構成であっても、使う曲やパフォーマンスには無限の組み合わせがあり、そのストーリーが見せる景色も全然違います。「このファンタジー感動したけど、この感動の構造はあのSFと一緒だからやっぱり感動取り消し!」みたいに怒る人はいません。

「これが好きな曲なんだ!」「この曲のここを聞いてほしい!」「このアニメ最高!」とオタク的な魂が叫ぶ曲は一人一人違うはず。そうした曲をきちんとフロアに届けるために、ストーリー構成の中で使いどころを間違えないように組み立てていけば、自然とアニソンDJとしてのオリジナリティが生まれてくるはずです

もっと複雑な構成をつくるには?

基本的には、3の「外し」を何度か入れていくだけです。景色がガラッと変わる場面を何度も用意することで、構成を複雑にすることが可能です。例えば、持ち時間が1時間ほどある場合は、途中で飽きられないように2回、3回展開が欲しいです。(例えば、『君の名は。』でもクライマックスの中に三葉の父親から拒否されるというというパートがあります)

複雑にすれば、もちろんプレイの難易度が上がります。同じ感動を引き起こすために、より短い時間で、大きくフロアの感情を動かす必要があるからです。「なんとなくいい感じ」な曲を選びにくくなり、「なぜその曲をそこで選ぶのか」理由を明確にした、無駄のないシビアな選曲が求められます。

まずは、基本の王道構成を念頭に置いてみましょう。これだけでもなんとなくプレイするよりも、かなり良くなるはずです。

3.「緊張」は「期待」と「裏切り」でできている

王道構成のストーリーをフロアに共有するには「緊張」が必要

王道構成ができればいいアニソンDJになる。王道構成の概要もなんとなくつかめました。次は、この王道構成をフロアに伝えることを考えます。王道構成がいくら感動を生みやすい構成であっても、フロアにしっかり共有しなければ意味がありません

そこで重要になるのが「緊張」というキーワードです。「わぁ、緊張する...」みたいなビビる的な意味ではありません。「緊張」を意識できるかどうかで、フロアのアニソンDJ体験は相当な差がつきます。

緊張:
フロアの観客が自分のDJプレイに集中している状態

どれだけ構成がしっかりしていても、「なんか、つまんないな...」と途中でそっぽを向かれてしまっては、ストーリーが伝わりきらず、結果的にあまり感動できないものになってしまいます。映画やドラマも流し見では泣きにくいのと一緒です。

アニソンDJで、最後までノーミス、つかみから最後の一曲まで完璧にフロアと思い描いた景色を共有できるときがあります。僕も滅多にありません。その時は、フロアが1つの生き物みたいにとんでもなく盛り上がりながらも、凄まじい緊張感が漂います。フロアの全員が自分のプレイに集中して、心から一緒に楽しみたいと思ってくれている状態。

フィギュアスケートの完璧な演技や、ピアノのコンサートで圧倒的な演奏のときに感じる、ピンと張り詰めたドキドキ感に近いです。終わった瞬間に拍手せずにいられないあの緊張状態。そこに近づけることが目標です。

では、「緊張」を生み出すにはどうすればいいのでしょうか?

「緊張」は「期待通り」と「裏切り」の連続で生まれる。

アニソンDJにおける「緊張」の反対語は「飽き」と「不快」です。同じような展開、お決まりだけの展開では飽きてしまいますし、だからと言ってコロコロ変化ばかりしているとついていけず不快に感じてしまいます。

フロアの観客は常に安心と驚きを求めています「期待通り」な展開で、安心感を与えつつ、たまに期待をあえて「裏切る」ことで驚きを与えることで、集中力を途切れさせず、緊張をキープすることができます。

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一度でも、飽きられたり、不快に思われたりすると、そこから再び「緊張」させるのはものすごく大変です。だから「緊張」をキープできるようにバランスを取らなければなりません。

この考え方がわかると、アニソンDJ初心者がよくやりがちながら構成が意外と難易度が高いものであるということがわかります。「裏切り」がつくりにくいので、「緊張」をキープするのに高いテクニックが要求されてしまうのです。

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「選曲」と「ステージング」は両輪

それでは「期待通り」や「裏切り」は何から生まれるのか。DJという行為を2つの要素に分解して考えていきます。

1つは「選曲」。どんな曲を選びどうやって繋ぐのかということです。もう1つは「ステージング」。DJプレイ中DJブース上でいかに体を動かすかということです

選曲:
DJにおける音楽的な要素。音響機材から流れる楽曲をどう選び、どう繋ぐのか。
ステージング:
DJにおける身体的な要素。DJブース上でのパフォーマンス。どう動き、どう先導するのか。

「ステージングなんか考えなくても、俺は選曲だけで魅せるんじゃ!」という方もいらっしゃるかと思います。もちろんいいと思います!が、個人的には、ステージングもきちんと考えた方が、いいDJをする上では結果的に楽です。特に初心者の人は、いきなり選曲オンリーの縛りプレイからはじめるのはおすすめしません。

ここから「選曲」と「ステージング」を詳しく見ていきます。かなり具体的かつ、細かい話が多くなります。

まずは「選曲」から。お待ちかねのいわゆるDJテクニック論です!本題である緊張感を生むための選曲の前に、まずは簡単にアニソンDJの選曲の基本的な考え方をまとめます。焦らずいきましょう!

4.アニソンDJの選曲には「タグ」がある

アニソンDJ、使い勝手別ざっくりアニソン分類!

アニソンと一口に言っても、もちろん様々なアニソンがあります。アニソンDJにとっての使い勝手という観点で、勝手に荒々しく4つに分類するとこんな感じになります。縦軸にどれだけ知られているかというフロアでの知名度、横軸に今聞きたいアニソンとして浮かぶかどうかという熱中度をとっています。あくまでフロア基準なので、一概に、この曲がこの分類ということはなく、現場によって変化します。

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アンセム:
今一番みんなが聞きたい曲。楽しみ方が共有されている曲。ここ一番で盛り上げたいとき、ガラッと雰囲気を変えたいとき、畳み掛けたいときに使う。
メジャーアニソン:
アニソンDJが使うほとんどの曲。アニソンクラブイベントではよく聞く、アニソン好きなら知っている曲。構成のベースになる楽曲群。
国民的アニソン:
日本人なら誰でも知ってるTHEアニメソング。トリッキーなプレイの中で使うと「おおー!」となりやすい。
レアグルーヴ:
マイナーな曲。知ってる人は知っている玄人好みの曲。うまく流れの中で使うとDJとしての深みが出る。しっかり前後で盛り上げつつ、流れを損なわない前提で使わないと、火傷する。

これらのアニソンをうまく選曲し、繋いでいくのがアニソンDJです。アニソンDJは、テレビアニメのOPED尺に合わせて1曲当たり約1分半のテレビサイズ(イントロから一番終わりまで)を使用するのがスタンダードとなっています。

「タグ」、それはアニソンDJの真骨頂

アニソン同士をDJとして繋いでいくにあたり、繋ぐ手がかりとなる「アニソンの要素」を整理します。

アニソンの要素は、大きく二つに分類されます。

アニソンの要素
知識要素:

アニソンの「アニ」の部分。知識的な要素。アニソンDJの特殊性の要。通称「タグ」。アニソンDJらしさを出すために押さえる必要がある。VJ演出で補足してもらえる部分もあるが、わからない人には全然わからない。
(そもそもアニソン自体が、「アニメ関連の曲」という「タグ」がついていることで「アニソン」と呼ばれるものとして認知される)
体感要素:
アニソンの「ソン」の部分。音楽的な要素。他のジャンルのDJでも考慮される。上手に繋ぐために押さえる必要がある。

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アニソンDJはよく大喜利に例えられますが、それは様々な「タグ」で繋ぐという意識が存在することで生まれます。

例えば、

パン繋ぎ(アニメ作品のモチーフ「パン」というタグ)
『アンパンマンマーチ(それゆけ!アンパンマン)』→『ふわっふわのまほう(シャイニング・ハーツ 〜幸せのパン〜)』

京アニ繋ぎ(制作会社である「京都アニメーション」というタグ)

『Super Driver(涼宮ハルヒの憂鬱)』→『U&I(けいおん)』

アクエリオン繋ぎ(作品シリーズである「アクエリオン」というタグ)
『創世のアクエリオン(創世のアクエリオン)』→『君の神話〜アクエリオン第二章〜(アクエリオンEVOL)』

などがタグで繋いでいく例です。ちなみに後者2つは、和音的も合っているので、体感要素としてもきれいに繋がります。このタグの無限の組み合わせこそが、アニソンDJを、知的な興奮が大きいオタク的なエンターテイメントに仕立てている大きな要因です

繋ぎは「強度」で評価する

では、どんな繋ぎがいい繋ぎなのか。その判断基準の一つのなるのが「強度」という考え方です。

強度:
前後の曲のアニソンの要素の共通点が多ければ多いほど強い

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強度という考え方は繋ぎを評価する上では、非常に有用なのですが、ここから発想するとどツボにハマります。アニソンDJの目的は、一つ一つの繋ぎの強度を高めることではないからです。

目的は、「緊張」を最初から最後まで高い状態で維持し、持ち時間全体でストーリーを共有して、忘れられない感動的なプレイをすることです。

5.「緊張」を生み出すための選曲術-基礎-

選曲はブロックごとに考えると「緊張」を生みやすくなる

さて、いよいよ「緊張」を生み出すための選曲術です!まず紹介したいのが、アニソンDJの先人たちが生み出した最強の知恵。楽曲を2-3曲ずつのブロックで考えるというものです。

これは、2-3曲似た雰囲気の曲を連続させ、少し違う雰囲気の曲に展開し、またそこから2-3曲似た雰囲気の曲を連続させるというものです。

2-3曲同じような雰囲気が続いているところでは、「期待通り」の展開が続くので安心感が生まれ、ブロックが変わる時に変化があり「裏切り」が発生するので驚きが生まれる。そのために、自然に緊張をキープできちゃうという考え方です。

雰囲気を変えるときは、フロアが注目するタイミングなので、なるべく知名度の高い曲を使った方が「緊張」をキープしやすいです

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「緊張」を生み出すための3つの「基本の繋ぎ」

ブロックごとに雰囲気を合わせる、もしくはブロックが変わるところで雰囲気を変えるためにはどうしたらいいのでしょうか?そこで、考慮したほうがいい3つの「基本の繋ぎ」があります

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① ジャンルミキシング

アニソンには、アニメ関連の曲以上の縛りはありません。BPMも70くらいから、210くらいまであり。アニソンDJは、あらゆる音楽ジャンルを横断する「オールジャンル」が基本です

その中で、ある程度の数曲の雰囲気を揃えるために必要となるのが、基本の繋ぎその1「ジャンルミキシング」です。(これは僕の造語です!)

シンプルには、音楽ジャンルを揃えるという考え方です。HIPHOPっぽい曲の後にはHIPHOPっぽい曲を、ユーロビートっぽいの曲の後にはユーロビートっぽい曲を繋いでいくことで、「期待通り」の展開を生み出せます。反対に、ジャンルをずらせば「裏切り」を生めます。

ただし、アニソンDJにおいては、詳しい音楽ジャンル分類を覚える必要は全くありません!ジャンルミキシングはあくまで、歌詞やアニメの思い出も含めて、楽曲から受ける自分なりの印象をトリガーにして繋いでいくイメージです。「なんか感じが似てるなぁ」という曲を自分なりに把握することが大切です。

音楽には、そこから引き起こされるイメージがあります。それが、歌詞や歌い方、アニメの思い出と重なって「景色」が生まれます。なんか田園風景っぽいな、青空が広がっているな、寂しく一人きりだな、血なまぐさい戦闘だな、女の子が疾走しているな、大宇宙が広がっているなとか。その「景色」をフロアとしっかり共有することで、フロアはアニソンDJのストーリーに没入できます。なので、ジャンルミキシングはかなり重要です。ストーリー共有の要といっても過言ではありません。

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引用:音楽ジャンル早見表

② エネルギーミキシング

楽曲にはそれぞれエネルギーがあります。あっ、いや、いきなり宗教的な話が始まった訳ではありません!エネルギーとは、具体的に言えば、音圧や楽器数による賑やかさ、キックの強さだったり、ボーカルの歌いっぷりだったりといったものです。

この楽曲のエネルギーをそろえるのが、基本の繋ぎその2「エネルギーミキシング」です。(これも僕の造語です!)

エネルギーがいきなり変わると、ズッコケる印象を受け集中力が途切れるので、「緊張」が一気に弱まります。「音量を一定に保とう」ということは、よく言われますが、音を割れさせないというだけでなく「緊張」をキープする上でとても大切です。

楽曲にはエネルギーがあると言いましたが、正確には、楽曲の中でもエネルギー量は変わります。この楽曲内でのエネルギー量の変化を利用することで、エネルギーは揃えながらも、大きな「裏切り」を起こしていくことが可能になります。

具体例を見ていきましょう。ここぞで裏切りたい、変化をつけたい時に使えます。使えすぎて僕はものすごく多用してるので、ほんとはあまり公開したくないくらいです!実際に曲いていみるとわかりやすいかと思います。

エネルギー高い→エネルギー低い(一気に展開を変える時に使う)
・『Super Shooter(GANTZ)』サビ終わりでエネルギーが下がる
・『ライオン(マクロスF)』Cメロでエネルギーが下がる
・アウトロが優しく終わるTV sizeのアニソン
・Cメロやラスサビから繋いでアウトロで終わらせる
・エフェクターで「エコー/リバーブ」をかけながら曲を止める(ふぁんふぁんふぁん......とか、しゅんしゅんしゅん......とかなるやつです) etc...
エネルギー低い→エネルギー高い(一気に盛り上がりを取り戻す時に使う)
・『プラチナ(カードキャプターさくら)』イントロがエネルギーが低く、徐々に上がる
・『agape(円盤皇女ワルキューレ)』イントロがエネルギーが低く、サビで一気に上がる
・『残酷な天使のテーゼ(新世紀エヴァンゲリオン)』イントロだけエネルギーが低い
・『Tell your World』イントロのエネルギーが低く、サビで一気に上がる
・『A Whole New World God Only knows(神のみぞ知るセカイ)』イントロのエネルギーが低い etc...

そこまでパターンがなく、あらゆるアニソンDJが試行錯誤している部分なので、「これは上手に展開したな!」と思う繋ぎがあったら、積極的に真似して自分の手札に加えましょう!常に枯渇していているので、ぜひ教えてください......

③ ハーモニックミキシング

音楽的に気持ちがいい繋ぎの代名詞、基本の繋ぎその3「ハーモニックミキシング」各楽曲にある「キー」という要素に注目して繋いでいくというものです。特に「期待通り」の繋ぎを探したい時にものすごく役に立ちます。このハーモニックミキシングには、実は強い味方がいます。

最強の円環「キャメロットシステム」でハーモニックは完璧

それが、音楽理論の五度圏を活用した最強の円環「キャメロットシステム」。ほとんどのDJソフトにも搭載されています。前の曲と同じ数字か、一つ隣のマスを選んでおけば、理論的に和音がきれいに重なって気持ちよく繋がっちゃうという優れもの。外側の円がメジャーキー、内側の円がマイナーキーを示しています

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特に、同じマスで繋ぐととても気持ちよく繋がります。また上下左右も気持ちよく繋がります。気持ちよく繋がりますが、続けすぎるとすぐ飽きます「緊張」を生み出すには、キーを滞留させるだけではなく、積極的に動かしていくことが必要です

キャメロットシステムを最大限活用するためには、正確にキーを推定することが必要です。DJソフト内臓のキー推定はやや精度が荒いため『MIXED IN KEY』などの専用ソフトを使うのがおすすめです。

「キャメロットシステム」を応用したちょっと「裏切る」繋ぎ方

音楽理論に精通している訳ではないので、違っていたらごめんなさいのコーナーです!うまく転調すれば、うまく繋がるはずという考えのもと、キャメロットシステムをまとめています。

まずは、ポップスの盛り上がりどころや大サビでよくやられる音を上げる転調を真似した繋ぎ方です。次の曲のエネルギーを少し上げることを意識しながら、カットインで入れていくと、盛り上がりが感じられ展開に勢いがつきます。これだけでも知っておくと、ハーモニックミキシングの幅がグッと広がります。

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次は、メジャーキーでの長3度の転調を真似した繋ぎ方です。メジャーは三角形でつないでも意外とスムーズに繋がることを知っておくと得かもしれません。僕はあんまり使わないですが。マイナーキーの場合は、反時計回りに3つずらすことで同じ効果が発揮できます。マイナーは四角形ということですね。

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さらに、同主調転調を真似した繋ぎ方です。例えば、CマイナーからCメジャーに繋ぐということです。雰囲気が結構変わります。絶対ではないですが、マイナーからメジャーに行った方が基本は盛り上がります。

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最後に、音楽理論的には属調/下属調平行調の転調と呼ばれるものを真似した繋ぎ方です。こちらも意外とスムーズに繋がります。

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王道構成の図を思い出していただくとわかりやすいですが、アニソンDJは「右肩上がり」が基本です。キーも基本的には上げる方向に持って行った方が効果的なので、上げる転調を意識しましょう。

ここまでハーモニックミキシングの話をしてきましたが、個人的にはハーモニックだけに囚われるのは危険だなと考えています。特に、円環の中外、左右の基本的な繋がりだけで全体をつくっていまうと、良く言えば「綺麗な」、悪く言えば「驚きのない」プレイになりがちです。

たとえ理論に合ってなくても、自分の耳で聞いて、心が震えるような選曲を優先した方が、絶対いいアニソンDJになります!ハーモニックミキシングは効率的に選曲を行うツールではありますが、最後は、必ず自分の耳を信じていきましょう!

6.「緊張」を生み出すための選曲方法-応用-

難しいかつ失敗するとかなりシラけますが、成功すると大きな「裏切り」とともに、フロアの「緊張」を一気に高めることができる技を2つ紹介します。

誰でもわかるメロディを無理やり作って繋ぐ荒技「トーンプレイ」

トーンプレイは、前の曲の音を使って、次の曲のメロディラインをつくって繋いでいくという荒技です。RED BULL主催「3STYLE」や「DMC」というDJの世界大会を中心に流行したもので、DJ kaw*kawさんなどを中心にアニソンDJにも取り入れられ、広がりました。

CUEボタンで元音のままでサンプリング的にパッドを叩く方法と、特定の単音をピッチ変更して無理やり音階をつくる方法の2種類があります。こちらの動画は、サンプリング方法のイメージです。(00:25〜01:20のあたり)

誰でもわかる言葉で大喜利的に繋ぐ大技「ワードプレイ」

ワードプレイは、言葉の繋がりで繋いでいくというものです。同じ言葉を使ったり、言葉が指し示すもので繋いだり、言葉同士で返事をさせたりして展開をつくります。

例えばアニソンDJで有名なワードプレイだと、

『ポケモン言えるかな?(ポケットモンスター)』→『snow halation(ラブライブ!)』
「....タマタマ ガラガラ フシギダネ」→「不思議だね いまの気持ち....」
『人にやさしく(ローリング☆ガールズ)』→『あんずのうた(THE IDOL M@STER CINDERELLA GIRLS)』
「聞こえてほしい あなたにも ガンバレ!」→「い、いやだっ! 私は働かないぞっ! 」

みたいなものがあります。

「トーンプレイ」も「ワードプレイ」も必ず有名な曲に繋ぐんだ!

これはもう絶対に約束です。こうしたトリッキーなプレイの次の曲が知らない曲だと、盛り上がり切らずに、なんか「俺上手だろ!って見せたいだけだったねぇ」という微妙な空気になることがあります。必ず、次の曲は誰が聞いても「なるほど!うまくやったね!」と純粋に思えるような、知名度の高い曲にしましょう。

「選曲」パートはひとまずここまで!次からは「ステージング」についてです。

7.アニソンDJの半分は「ステージング」

選曲がよければそれでいい......わけじゃない!

「選曲がよければ、DJはそれでいいだろうが!」というご意見もあるかと思いますが、僕は賛成しません。視覚的な情報の情報量はとても多いからです。視覚は聴覚の約8倍の情報量を持っていると言われています。

なぜ、VJさんの演出がある方が盛り上がるのか?なぜ、大きなフェスでは照明や美術に力を入れるのか?フロアからDJがどう見えるかというのは、どういう選曲をするのかと同じくらいアニソンDJ体験を作る上で大切です。

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ステージを見上げるだけでも「裏切り」!?

皆さんは、日常生活で何かを見上げることはありますか?手をあげることはありますか?飛び跳ねることはありますか?リズムに合わせて手を頭の上で叩くことはありますか?たぶん、あまりないのではと思います。

これらの行為は、アニソンDJ(他のジャンルのDJもですが)の会場では、当たり前のように行われています。

DJブースというのは基本的にちょっと高いところにあるので、フロアからは少し見上げる形になります。意外かもしれませんが、これだけでほとんどの人にとっては「非日常的」な行動なわけです。緊張の話で言えば「裏切り」を感じているということになります。リズムに合わせて手を頭の上で叩くなんて尚更です!

ステージングは行動の選択肢を絞り、行動を起こしてもらうことを狙う

では、曲をかけていれば、フロアの方々が勝手に非日常な行動を始めるかというと、もちろんそうではありません。理由は2つ「そもそも何をしたらいいのかわからないから」「シンプルに恥ずかしいから」です。

1.「そもそも何をしたらいいのかわからない」
ほとんどの人にとって、DJがプレイしている間、何をしたらいいのかわかりません。今は揺れていたらいいのか、飛んだらいいのか、声を出したらいいのか。正解がわからない状況で、決断して行動するのは、ものすごいストレスです。
2.「シンプルに恥ずかしい」
自分だけフロアの中で浮きたくない。みんなと違うことをしたくない。わざわざ恥をかきたくないという心理的なハードルが、フロアのほどんと人には存在します。

この状況を打破するために、DJのステージングが必要となってくるわけです。

アニソンDJの会場の中で、これからどんな展開が待っているのかを知っているのは「DJ本人」だけです。なので、DJ本人がいちばん「今どうやって楽しむのがベストなのか」という正解を知っているはずです

ステージングとは、そのDJ本人が自分自身の身体で、今やるべき行動の正解を提示することです。

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DJが一番最初に、今この状況での行動の正解を表現することで、フロアにいる人の頭にある行動の選択肢を絞り、行動に誘うことで、フロア全体をコントロールする。フロア全員で同じ行動をしていると、参加している人の中で安心感が高まっていきます。その一方で次のどんな新しいことをすればいいのだろうと「裏切り」を楽しめる状態になります。つまり、身体性をベースに、自然に「緊張」が高まっていくループが生まれてくるのです。

このときの行動は、クラップをする、オイオイと煽る、ジャンプするといった派手な動きだけではありません。あえてゆったりと動く、ただ揺れる、止まるといった静かな動作も、楽曲と作りたい盛り上がりの方向性に応じて織り交ぜます。

オンラインライブを見ていても、なぜか現地ほど盛り上がれないなという感覚は、この身体性から生まれる「緊張」に乏しいからではないかと僕は思っています。(逆にここがデザインできると面白いと思います。みんなで同じものを食べるとか、コメントを打ち込もうとか、同じ時間に同じ行動を促すことができれば、体験価値があがるはずです。)

閑話:イギリスでアニソンDJしてめちゃくちゃスベった話

昔、イギリスにアニソンDJとして呼ばれた時、日本ではバカウケな最強の選曲をしてプレイしたにも関わらず、冷や汗が出るほど思いっきりスベったことがあります。もう信じられないほどスベりました。誰もノらない、声を出さない、あれ何やってんのという目で見られる。完全にただのBGM係です。

冷静になって考えてみると、イギリスの人たちは、日本人と同じようにアニメを見ていない(時系列的にも、作品数的にも)ので、楽曲から受けるイメージも、そこに乗ってくるアニメの知識も全然違います。簡単にいうと、アンパンマンやちびまる子ちゃんなんて知らない、懐かしさを感じないという事態が起きるわけです。そして、そもそもアニソンDJというものが存在しない地域です。つまり、DJがアニソンかけた時、それをどうやって楽しんだらいいのか僕以外誰も知らない状況だったのです

とにかく、トラウマ的にスベったので、次の日は「動き」を中心に選曲することにしました。手を叩いたり、飛び跳ねたり、ダンスがあったり。自分が所属する「アニソンディスコ」のお家芸である『コブラ(スペースコブラ)』の「コブラ〜♪」というサビの部分でみんなで飛ぶ「コブラジャンプ」も取り入れました。さらに、アニソンクラブイベントでは、コスプレしている人の曲がかかるとコスプレしている人が前に出てフロアの方を向いてアピールする「コスプレを拾う」というカルチャーがあります。これもコスプレしている人がいたら、考えていた選曲を変えてでも曲をかけ、手をひいて、ステージにあがってもらうということを実践しました。

自分のDJタイムを「アニソンをかける時間」ではなく、「アニソンDJの楽しみ方を1から一緒に試してみる時間」に変えたわけです

冒頭からとにかく自分から率先して動く、煽る、一緒にやろう!と呼びかける。そうすると、前日とは違ってこれでもかとドッカンドッカン盛り上がったのです。信じられないくらい歓声が上がり、みんなニッコニコで汗だくになりながらアニソンを楽しみ尽くしました。プレイ後、「アニメソングのDJはマジで最高だ!」「次はイギリスにいつくるんだ?」というメッセージが何件も来て、「お前が今年の会場でベストだったな」と会場の清掃員のおじさんからも言われました。

アニソンDJの楽しさの根源は「アニソンを大きな音で"聴く"だけではなく、それも含めてアニソンで"遊ぶ"こと」にあるんだなと価値観が変わった経験です。もし、アニソンDJの文化が存在しない地域や全く知らない人たちの前でDJをする際には、特にステージングに気を使うといいかと思います!

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ひらけ胸!空間掌握力を高めるには、存在を大きく見せること

話がそれましたが、とにかくステージングはアニソンDJでとでも大事だということです。ただし、気をつけなければなならないのは、DJが率先して行動すれば、必ずフロアが付いてきてくれるわけではないということフロアを動かすだけの「空間掌握力」を高める必要があります

空間掌握力:
どれだけフロアの人たちが、DJである自分の行動をマネしてくれるのか

ではどうやったら、フロアの方々が、DJの動きにしたがって、動いてくれるような空間掌握力を高めることできるのか?

答えからはじめます。

空間掌握力を高める一番の方法は「ブースでの存在感を高めること」です

そして、ブースでの存在感は、DJのブースの使用率によって変化すると僕は考えています。

言葉だけで説明すると少しわかりにくいと思うので、DJブースでのDJの立ち位置の再現図を使いながら説明します。

ブースでの存在感が低く、空間掌握力が低い例

PCとMIDIコントローラーでDJをする場合によくあるDJの見え方です。DJブースでは基本的にPC台が左右にあり、MIDIコンも左右どちらかにしか置けません。また、MIDIコン自体にフェーダーがついていることが多いので、DJブース中央にあるミキサーにもほとんど触る必要がありません。

これによって、DJは基本的にDJブースの左右どちらかの片寄った位置に立つことになります。さらに、選曲している間、DJの胸は閉まっている状態になり小さく見えます。また、MIDIコンを触る動作は、こじんまりしているので、動きのダイナミックさにも欠けます。「何か細々したことやってるなぁ......」という印象を受けやすくなります。

DJが正対するのは、PCになりがちなので、フロアも自分たちを見てくれているという意識になりにくいです。かなり意識的にDJブースで動かないと、存在感を高めるのが難しい配置になります。

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MIDIコンを否定したいわけではありません!単純に、ステージングで空間掌握力を高めるという上では、不利になりやすいということです。MIDIコンは、選曲を行う上では余りあるメリットもありますし、値段もお手頃で、家でも同じ環境で練習しやすい機材なので、天秤かなぁと思います。

ブースでの存在感が高く、空間掌握力が高い例

CDJやターンテーブルを使うDJの見え方です。PCDJでもDVS(ターンテーブルやCDJをコントローラー代わりに使う)場合は同じです。左右の CDJやターンテーブルを交互に触り、中央のミキサーで曲を繋ぐことになります

この場合は、DJは基本的にDJブースの中央位置に立つことになります。さらに、使う機材が広く配置されているので、DJの胸が開くことになり、先ほどの例よりも、身体が大きく見えます。また各機材をダイナミックに行き来するので、普通に繋いでいるだけでも、「なにかよくわからないけど、DJっぽいことしてる!なんかすごい!」という印象を与えやすくなります

DJブースの真ん中で、フロアに向かって正対することになるので、暗に「自分がこの空間で一番みるべき人ですよ!」というメッセージを発することができます

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比較からもわかるように、空間掌握力を高めたいのであれば、CDJ、ターンテーブルを使う方がベターだということです。僕自身は「TRAKTOR F1」というMIDIコントローラーを2つ使いDJブースの左右に配置することで、MIDIコンの良さと存在感を高める両どりを狙っています。

さらに、空間掌握力を高めるには?

いいアニソンDJをされるDJは、ステージング上手なDJの方がとても多いので、観察してどんどんパクりましょう。僕の憧れであるDJの方々のプレイの中で参考になるステージングがあるのでご紹介します。(ご本人たちが意識しながらやられているのかはわかりませんが......)

例えば、日本のトッププレイヤーのDJ WILDPARTYさん(ワイパさん)などがよくやられる動きとして、腕を左右に大きく広げるというものがあります。これによって、ブースが一気に埋まり、DJの存在感がグッと高まります。ワイパさんは、そもそも身体がとても大きいので、空間掌握力のベースが高い上に、非常にステージングも上手なので、DJブースでの存在感が常にハンパないです。本当に強い。

また例えば、日本のアニソンクラブカルチャーのメッカでもある秋葉原mograの代表であり、"Pioneer DJ"デモンストレーターも務めるD-YAMAさんなどがよくやられる動きとして、腕をあげてノリノリで左右に動くというものがあります。D-YAMAさんはワイパさんに比べると身体は大きくないですが、ブース上でよく動いたり、腕を広げ胸を開きながらCDJを使い倒したりするために、実際の身体のサイズ以上に、DJブース上での存在感が大きく感じられます。本当にすごい。

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ちなみに、ステージングでは、マイクパフォーマンスも重要なのですが、僕はあまり得意ではなく知見が少ないので、割愛します。(アニソンディスコの主将鮫島一六三さんや、DJ EVANGELIONさんなどはマイクをものすごく効果的に使われているので、詳しく聞いて見たいです!)

8.「必殺技」は最強の諸刃の剣

必殺技を見つけたら、磨こう!

最後に、アニソンDJにおける必殺技という存在に触れたいと思います。先に断っておきますが、これはアニソンDJをする上で、必須なものではありません。また、ある程度自分のDJが事前にフロアに知られていることが前提になるので、これからDJを始める人には少し先の話かもしれません。

必殺技:
そのDJにフロアが期待する、そのDJならではのプレイのこと

思い入れのある特定の曲を毎回かけるとか、特定のパフォーマンスがあるといったことです。

アニソンDJ以外の例で言えば、中田ヤスタカが『にんじゃりばんばん』をかける。アジカンが『リライト』を演奏する。ミルクボーイが『コーンフレーク』のネタをする。吉本新喜劇の『乳首ドリル』。宝塚の『大階段でのフィナーレ』などなど......

自分の必殺技が見つかると、とてもフロアを盛り上げやすくなります。フロアがすでに大きな期待を持っている状態なので、期待に答えることで、一気に「緊張」を高めることができるからです。フロアが知っていることをなぞることでフロアの安心感も増すので、その後のプレイ中に新しいことにも挑戦しやすくなります。

自分のプレイの中に、必殺技と呼べるようなお約束を持っておくことは、とても大きなメリットがあるのです。

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必殺技のデメリットは「数」が解決してくれる!

ですが、必殺技というものには代償が付きものです。「この必殺技を使えば...俺は死ぬ!」ほどではないにしろデメリットがあります。

それは、必殺技を使わないプレイがやりにくくなること。フロアが大きな期待を抱いていることは、裏を返せば、期待に応えなければガッカリされるということです。必殺技をやらない場合は、新しい必殺技と呼べるくらいのサプライズが必要になります

この解決法は、必殺技の数を増やして、期待の抽象度を上げることです。

例えば、自分の必殺技として「DJ中に『ソーラン節』を踊る」ということがあるとします。この単一の必殺技しかないと『ソーラン節』を踊らなかったらフロアはがっかりしてしまいます。もし、『ソーラン節』以外にも『よさこい』も踊れるし、『ブレイクダンス』も踊れるようになったとします。

するとこのように、フロアの期待の抽象度が上がります。

フロアの期待
「このDJは、DJ中に『ソーラン節』を踊ってくれるはず」(抽象度低い)

「このDJは、DJ中にびっくりするような踊りを踊ってくれれるはず」(抽象度高い)

必殺技の数を増やすことで、何かトリッキーなプレイを入れてくるはず!面白い動きをするはず!横ノリで気持ちよくさせてくれるはず!あのアニメの曲を使うはず!くらいの抽象度の高い期待をフロアに持ってもらえるようになると、無敵です。これは、思い起こされる特定のプレイがあることが前提なので、最初から抽象度を高めることを目指してもあまり意味がありません

アニソンを使う有名なDJさんたちで考えてみると、意外と抽象度の高い期待になっていることがわかります。

例えば、DJ 14さんやDJ SAAYAさんには、プレイのどこかで高度なターンテーブルを使ったプレイをやるはずと期待すると思います。
例えば、DJ EVANGELIONさんには、サイリウムを用いた造形やアクロバティックなステージングを期待すると思います。
例えば、アニソンディスコには、フロアみんなで一体になれるような振り付けや「コブラジャンプ」を期待すると思います。

ちなみに、アニソンDJの王道ストーリー構成の最初は「つかみ」&「自己紹介」でしたが、これは初対面の人に対して、こういうプレイを自分はするというフリをするということで、擬似的に軽い必殺技を作っている状態とも言えます。

9.まとめ-常識をぶっ壊せ!アニソンDJはまだ進化できる!-


ここまで「いいアニソンDJは何をしているのか」を整理してきました。

全体のまとめ
・いいアニソンDJには、感動できるだけの「ストーリー構成」がある。
・感動できる「ストーリー構成」には「王道構成」がある。
・ストーリーを共有するためには、「緊張」が必要。
・緊張は「選曲」と「ステージング」で生み出す。
・選曲は「ジャンル」「エネルギー」「ハーモニック」を意識する。
・ステージングは空間掌握力を上げるため「ブースでの存在感」を高める。
・「必殺技」があると、それだけで緊張が生まれる。

今回のnoteは、基本的に自分1人のDJのことしか考慮していません。実際のDJ現場では、前のDJによって、フロアの雰囲気も違いますし、自分の出番によっては求められる役割が限定されることもあります。イベント全体でのストーリー構成も考えなければならないからです。ただ、これはDJだけではなく、イベントのタイムテーブルを決めるオーガナイザーの領域でもあるので、今回は触れませんでした。

また、イベント出演のための公募用DJMIXに関してもほとんど触れませんでした。公募用DJMIXは、誰が審査員なのかで、何を大切にして評価するのかが変わります。判断指針がフロアではなく審査員にあり、しかもコンペです。1本のストーリーとしての完成度はもちろん大事なのですが、審査員の好みを考えつつ、受けのいい展開やテクニックを盛り込み、さらに他の応募者と差別化する必要があります。これは、現場で求められるものとは少し異なるので、議論が複雑になるの避ける為に、射程外としました。

最後に改めて、なぜこのnoteを書いたのか。

Googleの学術論文検索サービス『Google Scholar』の標語は"Stand on the shoulders of giants"(巨人の肩の上に立つ)。これは「先人の積み重ねた発見(巨人)に基づいて、新しい発見をする」という意味です。

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このnoteは、これまで数多くのアニソンDJたちが地道に築いてきた技術や暗黙知を、僕なりに言語化したものです。その知見を、これからアニソンDJを始める人がゼロから発見する必要はありません

ここまで読んでくれた新しいDJの方々が、僕を含めた先人のアニソンDJたちの発見をサクッと標準装備にして、まだ誰も知らない「アニソンの遊び方」を発明してくれることを願っています。なんか「お前引退するんか?」みたいな感じですが、僕もまだまだ頑張ります!!負けないぞ!!

「アニソンDJって、アニサマみたいなアニソンアーティストのフェスの代わり?下位互換?本人じゃないのに盛り上がるの?」と聞かれることがあります。答えは「使う楽曲は同じだけど、楽しみ方が違う。そして、めちゃくちゃ盛り上がる」です。アニソンアーティストフェスは、1曲1曲の緊張がとてつもなく高いですが、どうしても曲間で緊張が途切れますし、フロアの楽しみ方も限定的です。アニソンDJは、逆に1曲1曲の緊張は生歌ほどではありませんが、曲が繋がる間は緊張が途切れず、フロアの楽しみ方もかなり自由です。どちらかに優劣があるわけじゃなく、エンターテイメントの質、つまり楽しみ方が違うのもの、だと思います

これからアニソンDJを始めるみなさんは、もっと遠く、もっと高みまで、もっと速くいけるはずです。

2021年、一緒にいいアニソンDJしましょう!


ふくゐちゃん

不明点や間違い等ありましたら、TwitterのDM等からいただけましたら幸いです。また、アニソンDJの講師等もやりますのでお気軽にお声がけください!

Twitter:@koppe_panna
Mail:k.fukui714@gmail.com

記事中お名前出させていただいたDJの方々のTwitter

DJ WANさん
鮫島一六三さん
DJ kaw*kawさん
DJ EVANGELIONさん
D-YAMAさん
DJ WILDPARTYさん
DJ 14さん
DJ SAAYAさん

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