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人を動かす極意:イ・ジョウ・チ

 「あの人に、この件、賛同してもらいたいな」

 仕事でも、プライベートでも、日常において「人の心を動かしたい」という場面に事欠くことはないでしょう。

 人の心を動かす方法や様々ありますが、“イ・ジョウ・チ”をバランスよく盛り込むことが1つのポイントです。これは、“意・情・知”のことで、通常は“知・情・意”(チ・ジョウ・イ)の順番で語られます。ご存じの方もいると思いますが、それぞれ、

  • 知=「知性や理論」

  • 情=「感情や美意識」

  • 意=「意志や哲学」

のことを指します。

 これら3つの要素は人の共感を得るために重要な要素と言われています。例えば、夏目漱石は小説『草枕』の冒頭で、

知に働けば角が立つ(理論ばかりだと波風が立つ)
情に棹(さお)させば流される(感情ばかりで動くと流されてしまう)
意地を通せば窮屈だ(意志ばかり押し通すと息苦しい)

夏目漱石『草枕』

と書いています。皆さんの周りでも頭でっかちな方や、感情的な方、意地っ張りな方がいると思います。こういう人たちに「ついていけないな・・・」と思った経験はあるのではないでしょうか。

 つまり、知・情・意のどれかに偏ってしまうと、人の反発や離反を招くことになるため、3つのバランスをとる必要があるのです。では、なぜ“意・情・知”(イ・ジョウ・チ)と順番を変えているのか。

 なにごとも起点となるのは一人ひとりの「意志」だからです。例えば、人を惹きつけてきた歴史上の人物を思い描いてみましょう。坂本龍馬でもガンジーでもマザー・テレサでも構いません。彼ら・彼女らが人を動かせたのは、何か精緻な分析をしたからでも、感情を爆発させていたからでもありません。「こうありたい」という強い意志を人々に示したからです。

 その意志に「情(感情に訴えかけるエピソードやイメージ)」が乗ると、ストーリーになります。例えば、キング牧師の有名な演説、「私には夢がある。いつの日か・・・(I have a dream. One day…)」という鮮明なイメージを語る姿は多くの人の心を打ちました。こうした“意と情”は、ビジネスのあらゆる場面で重要となります。実は、CEOの優秀さを分かつ要素ともなっています。世界のCEO700名の特性を分析した結果[1]、「目標とミッションに対する意識が高く、情熱と切迫感を行動に表す」ことが高い業績・成長率を実現できるCEOの要素として抽出されたのです。

 この“意+情”でも十分パワフルですが、更に“知(論理)”の力を加えます。そうすると、「どうやってそれを実現するの?」「なんで実現できるの?」という理性的な疑問が解消されて、人を動かす後押しをしてくれるのです。

 1つ注意が必要な点があります。ビジネスに携わる方は、どうしても「知(ロジック)」に偏りがちです。もちろん欠かせない要素なのですが、自分の出した「答え」がワクワクするか、根底に一貫した哲学や信念があるかは少し立ち止まって考えてみるとより良い結果が生まれるかも知れません。

 人事の領域では、人事のビジョンや戦略に“意・情・知”を込めると良いでしょう。つまり、

  • 意:なぜそうした人と組織の姿にしていきたいのか、どの様な哲学や信念があるのかの想いを込める

  • 情:ありたい姿を実現するとどんな良いことがあるのか(どんな美しい世界が待っているか)、ワクワクするイメージを込める

  • 知:どの様に実現するのか、なぜ実現できるのかを論理やデータ(数字)を用いて納得性を高める

ということです。こうしたことが出来れば、社内外の人材に対して魅力付けを高めるだけでなく、経営陣や事業から、人事がやろうとしていることの賛同を受けやすくなるのです。

 「どういうバランスでイ・ジョウ・チを盛り込むと、上手くいきやすいか」は人や状況によって異なると思いますので、トライアル&エラーを繰り返しながら、精度を高めていただくと良いでしょう。


[1] How the Best CEOs Differ from Average Ones November 15, 2016.

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