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窓際のおっさん27 会社で横行する「匹夫の勇」(前編) 安全より早さ 個人の武勇重視で成果を欲張るブラックな職場の惨状

 項羽と劉邦の話で、劉邦陣営の代将軍「韓信(姫信)」が口にした項羽の評として有名な言葉がある。

「匹夫の勇」

 項羽は何倍もの兵力差を武力によって抑え込むなど、個人としての武勇には秀でた。項羽が失敗した部下を叱責すると、その武を恐れ、部下は真っ青になってひれ伏したという。一方で部下を信頼して仕事を任せるといった、本当の勇気は持っていなかった。

 20年弱社会人をやっているが、ほぼ項羽の下で働いていたように思う。
 おっさんだけが良い人に巡り合う運に乏しかっただけだろうか?
 恐らくそうではなく、少なくともこの国では項羽のやり方がもてはやされる風土なのではないだろうか。

 今日はそんな会社での「匹夫の勇」について、おっさんの経験を交えながら考察したいと思う。

<会社において発揮すべき勇気とは?>


 匹夫とは「道理を弁えない身分の低い者」の意味である。「匹夫の勇」とはそうした道理を弁えない無謀な勇気。一見勇敢だが、やってることは取るに足らない。
そんなつならない勇気のことを言う。

 以上を踏まえて、おっさんの体験を話す。

 ボイラーを焚いて近隣の温浴施設に送水する設備の管理を担当していた時のこと、温浴施設側で漏水が発生し、修繕を行う事となった。修繕業者と温浴施設の運転計画を確認し、温浴施設側に了承を取って、2日で修繕を行う事とした。
 修繕前日、おっさんは出張で不在であったが、前日の夜間の準備とバルブ操作は夜勤者に引き継いだので安心していた。
 ところが当日の朝に出勤してみると、指示と全く違う手順とタイミングで進められており、修繕中に他所から漏水が出てしまった。

 経緯を確認したところ、上司がおっさんの不在中に自分の指示を丸かぶせして、1.5日で終わらせるように指示出しをしたとのことだった。
 漏水の原因は、おっさんが指示出しをした配管の水抜きとバイパス切り替えを実施せず、充水状態のまま作業したことにあった。

 詳細は省くが、配管系の修繕を行う際、交換又はつけ外しを行う箇所の水を抜くことは当然として、その前後や関連個所をどこまで止めるかは状況によりけりになる。止める範囲が広ければ当然、復旧にも時間がかかるが、安全でもある。

 上司は、おっさんの2日の安全第一の工法をいない間に勝手に指示変更し、止水範囲を狭めた。そして0.5日早く復旧の予定で功を誇ろうとした。
 やってる事は危険で、取るに足らない成果。匹夫の勇である。

 2日が1.5日になったところで、温浴施設の運営上の都合も追加費用も変化はなかった。むしろ急いだばかりに漏水の後始末で、やらなくていい作業まで加わって結局丸2日掛かってしまった。

※ 余談だが翌日、上司はこの報告に対してみっともない言い訳で返してきた。
「市民サービス優先だから」→どんな現場でも安全第一が原則
「そんな話聞いていない」→聞いてなきゃこうも先回りして指示を丸被せできない

 このように、一つ一つの仕事の速度や精度を競ってギリギリを追い求める一方で、他者を信頼して仕事を任せることはせず、肝心な時は逃げる。
 会社において発揮すべき本当の勇気はこんな小さなテクニックの勝負ではなく、全体や将来を見て、部下に必要な権限を移譲して任せる勇気や、現場やお客から急かされるプレッシャーがあってもブレずに安全第一を貫く勇気などではないだろうか。

<匹夫の勇を尊ぶと、職場がブラックになる>


 仕事を戦術に例えると、昨今は人手不足で、寡兵を持って大群に当たる異常事態が常態化している。
 
謀略(会社内のルール変更など)で仕事量を減らしたり、新兵器(ICT等の導入)で一挙大量処理を行う事も可能であるはずだが、そうした行為は否定されがちだ。そして個人の事務処理等の精度と速度ばかり尊ばれる。
 益々匹夫の勇を良しとする風潮が広がり、結果無謀にも、個々の武力と奮闘に期待するばかりの現状が続いている。

 この風潮の果てには、職位が高い=より個人としての武力の高い、と定義する上司まで現れる。職位が高いならば本来、指揮や戦術への理解、そして人を上手に扱う術に優れる人物として選ばれたはずなのだが。

 おっさんが令和4年、某政令市で仕事をしていた時、設備課という初めて配属された部署での体験談を話す。
 サービス残業が常態化している問題のブラック部署だったのだが、そこに、唯一の1つ職位の高い「主査」という立場で配属されて1か月目のこと、

A課長「主査なんだからさぁ~、もっと工夫して効率よくしてさぁ~」

 やっていることは一つ下の職位の主任と同じ内容で、図面を印刷して手作業で数合わせをする作業。主任はことごとく40時間近く残業を付けて、更に土日はサービス残業で出勤していた。おっさんはこれに対して、結構頑張って20時間の残業、土日も片方だけやむなくサービスで出て対応したが、これはいかんと思って少し残業代を請求した。すると、

A課長「なんでこんな時間かかっちゃうの?能力が低いんだよ」

と、この有様である。

おっさん「いや、ちょっとそれむりでしょ? 今月の後半2週間外部署の応援に行けって命令出しましたよね? いつも以上に残業しないと無理ですよ

 おっとそうだったと顔をしかめるも、すかさず言い返すA課長

A課長「普段仕事しているように見えないんだよ、しょっちゅうウロチョロウロチョロしてて、座ったらずっとパソコン眺めててさ

おっさん「机に向かってメールや電話でできることはそれで済ませた方が効率がいいでしょう。ウロチョロしているのは一緒の現場で仕事している隣の課の職員に、代わりにお願いしたり引継ぎの打ち合わせたりしてるだけで。」

MA課長「もっと業者呼びつけて指示出しするとかさ、もっと効率よくするためにやれることいっぱいあるだろ。

おっさん「業者呼びつけたらもっと時間かかりますよ?」

まったくただ主査だからケチ付けたいだけで、何も見ていやしない。

次回に続く


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