明るい花火

 東京でブランクーシ展に行き、白い犬のぬいぐるみを買って、駅の蕎麦屋に失敗したあと電車に乗って(ここまでが前回「東京にて」の話)そのまま横浜の山下公園へ向かった。その日はベルギービールウィークエンドという催しの初日で、それに参加するべく友人と待ち合わせをしていた。最寄り駅に着いてまず、白い犬を丁寧に梱包された袋から取り出し、カーディガンのポケットになおす。あとで友人に紹介するため。
 おれはフェスとかが得意ではないのだけど、このベルギービールのイベントだけはほぼ毎年参加している。山下公園という場所も好きだし、初日は平日の夕方からだからなのかビールを買うのに行列に並ぶということもない。友人が用意してくれたレジャーシートを敷いて海風にあたりながらのんびりと酔うのが最高に心地よい。そして毎年必ず会場で会う夫婦もいて、お互いに連絡先も知らないのだけど、なんとなくいるかなーと思っているとふらりと現れる。その日だけ集まる関係。そして全員声が小さい。小さいけどお互い聞き返したりもしない。でもなぜか会話が成り立っているのが不思議。白い犬を紹介したら「なにそれ」と言われ「今日、東京で出会いました」と言ったら「新入りなんだ」と笑っていた。とても満足だ。
 今年は花火が上がるらしいということでせっかくなのでその時間まで待つことにした。徐々に風が冷たくなってきて正直もうビールじゃなくて、お湯割か熱燗呑みたいな……ってかんじだったけど、花火は見たくてみんな耐える。19時、みなとみらいの方から花火が上がる。思ったより遠くて低い位置で上がってたし、まだ空が明るくて花火が薄かった。でもなんかそれはそれですごく良かった。5分間。自分が生きた時間の中の5分間にあの景色が登録されたんだな。忘れちゃうかもしれないけど、でも良かったな。
 撤収して、みんなで馴染みの居酒屋に行って軽く呑んで(いも焼酎お湯割)から帰宅。二日酔いが心配だったけど翌朝はむしろいつもよりスッキリを目醒めて驚いた。ご機嫌で身支度を始めるべく洗面台の前に立ったら、近年稀に見る顔のむくみで落ち込んだ。

白い犬くん。