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打ち上げ。

 大人数での飲み会に久しぶりに参加した。自分がどうなるのかは分かりきっていたけれど、本当にそうなった。

 わたしの座った席はテーブルを挟んで左右に4人ずつ、8人が座れる席の真ん中辺り。

 こういう場面で積極的に話が出来る人間ではないので、とにかく周りの会話に耳を傾けていた。歌集編集ワークショップで約4ヶ月間を共にした仲間たちではあるが、わたしに至ってはほぼほぼ初めてお話しする方ばかりだ。4ヶ月の間にいつの間にみんなこんなに仲良くなっていたのか?と言うほど和気あいあいとしている。実は自分は絶対に緊張するだろうと思って、打ち上げの前に0次会と称して1人でビールを二杯飲んでから参戦した。
〈もう、この世界レベルの人見知りをどうにかしろ。〉と自分にイラっとする。次から次へと飛び出す会話。笑い声。屋根裏部屋のように薄暗い店内のはずなのにキラキラと輝いて見える。眩しい。左隣りの女の子二人がとにかくかわいい。アイスとか買ってあげたくなるかわいさ。わたしもなんとなく輪の中に入っている風。時々わたしに話を振ってくれる青年。君を気遣いの神さまと呼びたい。
 しかし、途中から困ったことが起きた。会話が2グループに分かれ始めたのだ。いや、もちろん8〜9人で座っていれば、会話が何グループかに分かれることなんてよくあることだけど、ちょうどグループの境目に座っているわたし。いったいどちらの会話に参加すればいいのだろうか。
青チームではお笑いの話、ピンクチームではワインセラーの話。

青チームはしっとりと、桃チームはわいわいと話している。
どっちだ。
青、桃、青、桃。
だめだ。考えずぎてどっちの会話も全く入ってこない。
あー、ハイボールおかわり。
そもそも会話ってどうやってするんだっけ?
店内の照明器具がかわいいな。トイレどこだろ。あの子の飲み物なくなってるな…。意識が幽体離脱しそうになった頃、ちょうど青チームの話がいつの間にか短歌の話になっていて、いまだ!と、わたしは全体重をかけて青チームの会話に耳を傾けた。その後さらにグループは粘菌のように姿形を変えながら、会話は進んでいく。わたしは右隣りのかわいい子と話ができた。文フリでの立ち振る舞いが自分と同じで嬉しかった。やったー!ハイボールおかわり!
 そしてほどなくして時間制限となり宴は終了。あーもう終わりか。もう少し話したかったな。向こう側のテーブルの人たちとはほどんど話せなかったしな。なんとなくみんなそんな雰囲気のまま店の前の駐車場で立ち話を始めた。席が離れていたので話を出来なかった一人が話しかけてくれた。打ち上げの前に渡していたわたしのエッセイを読んでくれていたのだ。
「紺屋さん!!紺屋さんは自分の声が小さいと思っているかもしれないけど、そんなことないです!!エッセイの中でちゃんと大きな声出せてます!」と何度も言ってくれた。嬉しかった。そのあと小声で、「俺は声がデカくて紺屋さんはいやだったかもしれないけど…」と言うので噴き出してしまった。講義の中でわたしが苦手なものとして[大きめの声]と書いたことを気にしてくれていたのだろうか。優しくて繊細な人だ。「そんなこと全然思ってないですよ」と伝えた。むしろわたしは羨ましかった。講義の初日、自己紹介で「歌人です」と名乗っていたことも、自分の作品を講師の方に積極的に渡していたことも衝撃だった。熱意が全然ちゃうやん。わたしなんて、なんとなく短歌の知り合いできたらいいな…とかふわふわした気持ちもあったから、初日からビビった。そんな温度差北極と赤道レベルに違ったもの同士が短歌という共通点で繋がれたことが、ありがたい。

 「二次会行く人〜!」
わ、二次会やってくれるんだ。わたしはすかさず手を挙げた。少し酔っていたのかもしれない。もう少しみんなと一緒にいたかった。

二次会へつづく。