クマ専用

 夜中、小腹が減って台所に行くと、冷蔵庫が二つあった。はてと少し考えてから、一つはクマ専用だったと思い出す。中にクマが入って冬眠するのだ。冷蔵庫はもちろん中が冷えているから、クマは冬でなくとも一年中冬眠ができる。

 今や冷蔵庫は一家に二台が常識だ。そのぐらいクマが多い。クマが好む食糧をたっぷり詰めた専用の冷蔵庫を用意しておかなければ、人間様が彼らの食糧になりかねない。

 だがそれでもたまに事故が起こる。たとえば、クマ用ではない方の冷蔵庫にクマが入ってしまったりだ。

「……あっ!」

 まさかと思って人間用の冷蔵庫を確認してみると、はたしてクマはそこにいた。

「どうしてこっちに入っちゃうかなあ」

 とても困る。中身はもちろんすべて食い散らかされている。クマ用の冷蔵庫には人が食べられるようなものは入っていないのに。

「仕方ない、ハチミツでも舐めるか。……って、こっちもやられてる!」

 なんとクマ用の冷蔵庫の方も、すっかり完食されていた。このすやすや幸せそうに眠っているクマは、冷蔵庫二つ分の食糧を完食していたのだ。そりゃ幸せだろうよ。

「おれはいったい何を食べればいいんだ?」

 空っぽの小腹がきゅうと鳴る。この空腹を紛らわすには、もう寝てしまうしかない。幸い冷蔵庫は一つ空いている。

 おれは空っぽのクマ用の冷蔵庫に潜り込むと静かに目を閉じた。美味しいものを食べる夢が見られますように……。

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