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落ちてくる月
もっと自分の手が長ければ、落ちてくるあの月を支えられるのにと、子供のころ思っていた。
誰もあの月が落ちてくるなんて信じなかったケド。
でももし月が本当に落ちて来て、見上げるその姿が日に日に大きくなっていくとしたら、人はいつまであの月を美しいと眺めていられるだろうか。
爪の先ほどだった月が手のひらぐらいの大きさになったら?
バスケットボールぐらいでは?
落ちてきた月はやがて大気圏に触れ、激しく火の手を上げるだろう。
その炎は赤いのだろうか。それとも青いのだろうか。もっと神秘的な何色かだろうか。
ついには空を埋め尽くすほどになった月を見て、人々は果たして何を思うのか。
自分を飲み込まんとする巨大な月を、それでも人は案外うっとりと眺めているような気もする。
とても大切な隣の誰かに、
「今夜は月がきれいですね」
なんて浮ついたことを、囁いているような気もする。
月にはそんなところがある。
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