真夜中のタマ

夜中、小腹が減って台所に行くと夕マがいた。
「え? クマじゃなくてタマ?」
「クマじゃなくて夕マだよ」
 本人もそう言うのでやはりタマなのだろう。
 タマというからにはネコなのだろうが、とてもネコには見えない。その図体は頭が夫井につくほど大きく、手足も丸太のように逞しい。まるでクマだ。
 クマのようなタマが人の家の台所で何をやっているのか。
「集会だよ」
 タマはめんどくさそうに教えてくれた。ネコが集会をするというのは有名な話だが、それが今夜ここで行われるらしい。
「もうやってるけど」
 タマに言われて気づいた。黒々とした巨大なケモノが他にもたくさんそこにいることに。毛が黒いので闇に紛れて見えなかったのだ。
 気づいてみれば、今までなぜ気づかなかったのかというくらいたくさんの夕マがそこにはいた。まるで通勤ラッシュの山手線だ。部屋中が真っ黒く巨大なタマで満ち満ちていた。それまで闇だと思っていた黒はすべてタマだったのだ。
 その事実に思わず仰け反り後退ったとき、窓を覆うカーテンの隙間から一条の光が射した。朝日だ。そう反射的に考えたとき、朝日に照らされた真っ黒い夕マの巨体がすーっと溶けるように消えた。
 次第に部屋が明るくなってゆくにつれ、他のタマたちもやはり溶けるように消えてゆく。タマたちは逃げるでも抵抗するでもない。まるで眠りに落ちるような消え方だった。
 そして完全に朝が来たときには、あれだけ部屋を満たしていたタマはすべて消えていた。まるで夜のように。

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