火樹銀花 2019年 12月 パリ 1日目「夢」
オットーラップ「物ごとを超えた心の劣化」
クリスマスシーズンだが、今年のパリはいつもの年と違っていた。パリは連日デモがあり物騒な街になっていた。
しかしこの街は富める者が多く住む街。そしてこんな時でも世界中のセレブがやってくる最も人気のある街の1つなのだ。
パリに歴史ある老舗のホテルは何軒かあるが、その中でもつい最近大規模な改装が終了して、パリでも随一のパラスの称号をもつホテルに、少し遅い時間だが日本人女性の団体がやって来た。
20人ぐらいだろうか。旅慣れたエレガンスな雰囲気はないが、高級なスーツケースとブランドバッグでお金はあるよに見える。ツアーガイドの女がロビーで宿泊中の説明とカードキーを渡し各々が客室へと向かった。
このツアーは、人気のキャリアウーマン「奥本さとこ」の新著発表会を兼ねた読書会で、出版元のKAMOGAWAが企画した。さとこの本が出る度にパリのツアーは企画され、現地泊3日程度にもかかわらず渡航費別60万を超える。
知子(29才)は、初めての海外旅行でパリでも最高級のホテルに泊まる事になり少し興奮気味で落ち着きがなく、同室の遥奈(33才)が少し迷惑そうにしているのも気が付かずに、クローゼットを開け閉めしたり、バスルームへ行ってはアメニティーを手にとり「素敵!素敵!」とまるで子供のようにはしゃいでいる。
「ねぇ知ちゃん、ゴメンね時差ボケかな、ちょっとゆっくりしたいから静かにしてくれるかな?」
長時間の移動で疲れた遥奈が知子を傷つけないねように優しく言ったが、年齢の割には幼いので全く伝わってなかったようで、音に気遣う事もなくスーツケースから荷物を出して、クローゼットに服をかけたりと、遥奈はベッドで横になりながら、これからの数日の事を考えると気が重くて仕方なかった。
本当は知子ではなく、純子(すみこ)と相部屋のはずが、ツアー直前不慮の事故で意識不明になり、純子の代わりに知子が参加することになったのだ。「純子と一緒だったら楽しいめたのに…。」そう思いなら眠った。
神宮外苑の銀杏並木を歩いていると、少し遠くに知ってる人の後ろ姿を見た。純子の後ろ姿だ、純子に間違いない。
「純子ーーーー。」
と呼ぶと、その声に振り返って遥奈をみたのは純子だった。
「遥奈----。」
純子と遥奈は互いに駆け寄り手を握り合った。
「会いたかったー。元気になったんだね!!」
「何言ってるの?私はいつも元気よ!!いやーね。」
意地悪な言い方で元気で明るい純子。意識不明の事故が嘘みたいに回復している純子の姿を見て安心した。
「純子がパリに行かないから、私知子と同室で大変なんだからね…。」
と愚痴っぽく言うと純子は目をカッと見開いて突然顔色を変えた。
「パリ??パリ??パリなんか行かないわよーーー!!!!」
絶叫する純子に驚くと、銀杏並木の黄色い葉が、見る見るうちに
灰色に変わり、灰色から黒に変わり、真っ黒なコールタールに変化して
枝からポタポタと落ちて行く。そのコールタールが純子の足元引き寄せられるように集まって、足先から染み込んでいく。身体が黒に染まった瞬間、突然背中に漆黒の大きな羽が生えた。
「私は許さない。絶対に許さないから。許さないんだからーーーっ。」
と叫びながら真っ赤空へ飛び立ち渦を巻く黒い雲の中へ消えて行った。
「すみこーーーーーーーーっ」
泣きながら叫ぶと、目が覚めた。
すると現実でも泣いていた。純子の許さないは何?誰の事なんだろう。
夢とはいえ明るく温和でお茶目な純子が、悪魔の様に姿を変えてまで「許さない」ことが気になった。ホテルの窓から外を見ると、金色の綺麗なイルミネーションが光り、豪奢な空間で豊かな時間のはずが、純子の夢が引っかかり、星が見えない黒いを空を見つめ夜は過ぎていった。
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