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火樹銀花 2020年 生死無常ー孤独な死①

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ルイージ・ミラドーリ
17世紀子供の死亡率は高く 満1歳を迎える事ができる子は8割に満たなかった。下層階級になればなるほど低くなり6割程度。10歳を迎える頃には5割以下に…。子供にとって死はいつも隣り合わせだった。

2020年7月中旬、都内の集合住宅。異臭が立ち込める通路に数名の警察官と管理人。管理人が持っていた鍵で部屋を開けると更にキツイ腐敗臭でえずきそうになる。入ると直ぐにあるワンルーム特有の備え付けのキッチンは綺麗に整理してある、異臭の原因はここではない。扉で仕切られた寝室兼リビングそこからだ。粘着性の高い布テープで扉は閉じられて更に本が何冊も入った段ボールが置いてあり部屋の中から容易に開けられない様になっていた。段ボールをどけて、警官がテープを剥がし管理人が中に入った。

「うわぁ!!」

声を上げるその先には、腐敗して骨が見えかけたとろけた小さな肉の塊と腐った液体。それに集るウジ虫と小さな虫たちが孤独な遺体に寄り添うように蠢いていた。


遺体はここに住んでいた4歳の女の子で、数日後母親は都内ではなく大阪で身柄を確保された。元々単身向けのワンルームマンションだったが、長い不景気で小さな子を持つシングルマザーやファーザーも多かった。年齢も近いこともあって近くの公園で遊ばせたり交友のあった家族も数名いた。

亡くなった女の子は坂本初音。明るい子で、公園で同年代の子と遊んでいても特にトラブルはなかった。少し気になったのは時々何日も同じ服を着ていたり、風呂に入ってないのか髪の毛がベタベタしている事もあり他の親達も少し気に留めてはいた。初音の母薫は29歳、新宿のキャバクラで働きながら初音を育てていた。昼間は一緒に公園で遊んだり、スーパーで買い物をしたり良い母親だったのに今年になってからその姿もあまり見なくなったが、それは猛威を奮ったコロナのせいではなかった。


2019年5月初音と本屋に行った時だった。


「極貧シングルマザーから富裕層へ!!」という話題書のコーナーにある奥本さとこの本を見つけた。そこには子沢山の奥本が富裕層へ駆け上がるまでのシンデレラストーリーが書かれてあり、初音が児童書のコーナーで絵本を読んでいる姿を見ながら、奥本の本を立ち読みしていると波乱に満ちた人生を勝ち抜いていく姿に魅せられて気が付くと本を購入し、家に帰ってからはブログを読みあっという間に嵌ってしまった。奥本にはパートナーがいて子供たちの世話にビジネスのサポートまでしてくれている。馴れ初めから現在までの経緯もスナックとキャバクラという『水商売』という括りの親近感もあった。彼女の講演会やセミナーは高額だけれど、休みになると初音を友達やシッターに預けては参加し秋頃になると、薫が大勢のセミナー生よりも近い位置で奥本のブログに載るようになっていた。

 2019年12月

 薫の働くキャバクラは大繁盛していた。奥本を追いかけて散財していた薫は年明けからのセミナーに参加する為に必死に働いていた。そんな時に馴染の客が取引先の人間を連れて来た。長身で柔らかな物腰でお酒を飲んでも紳士的な態度の彼に惹かれた。名刺を交換して見送ったがどうしても彼の事が気になり来店を誘うメールを何度も送り2度目の来店、その後は薫と同伴出勤するような仲になっていた。
    薫は初音を一人で育てる母親、仕事では女を演じていたけれど彼に出会ってからは母ではなくもう一度女としてやり直したいと思い始めた。
奥本の本にもこう書いてあったのだ。

「母から女として生きたいと思った時、子供がいても夫がいても
女を優先すべき。そうする事で本当の女性性が目覚めて人生が変わる。
自分の幸せを優先する事で、家族は貴女の幸せな姿を見て喜びを感じるでしょう。だから自分を生きましょう。」

その教えを鵜呑みした薫は、初音を預ける事が多くなっていく。彼と一緒に過ごすには、初音を預けるお金がいる、奥本のセミナーにもお金がいる。
そんなお金の問題も奥本の本にはこうも書いてあった。

「女性性が満たされた時、全ての喜びが開花する。その時一切の悩みがなくなり心も身体も満たされ、内側が満たされると外側も満たしていくので自然とお金が入ってくる。全ては喜びへと繋がって行く、物質も肉体も精神も1つにそれが宇宙の法則なのだから。」

託児所の窓からキラキラと輝くネオンを見ながら、
初音は母が迎えに来るのを待っていた。
本当なら寝ている時間で、いつもなら
寝ている自分を抱き抱えて帰る薫を
初音は起きて待っていた。

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