【戯言】なぜノーマスクが威力業務妨害なのか

※私見です

 先日、ある男性がノーマスクで店に入り、店主の注意に従わず「客に何を言っている」と逆上、退店の指示に従わず居座った挙げ句、最終的には周囲に暴力を振るったというニュースがあった。当然の話として暴行は犯罪行為であり、許されることではない。また、「客に何を言っている」といういわゆる「お客様は神様」理論を振りかざして好き勝手しようとするのは人間として低俗であると思っている。今回書きたいのはそこではなく、その男の行為が「威力業務妨害」に当たる理由である。
 この件について「マスクの着用」という点が一部で議論になっている(主に陰謀論者やマスク不要論者から)ようであるが、今回の件についてはそこを論じるまでもなく問題であることを、「マスク」を別のものに置き換えることで説明したい。

 ある男性客が家電量販店にやってきて、商品の陳列してある棚のそばでおもむろに己のブツを出し、用を足したとする。これは誰が考えても問題であると思われるが、「何が」問題なのだろうか? 考えうるポイントとしては、「店員や他の客が見たくもないブツを見せつけられることになる」「商品に小便がかかって価値を損なわれるかもしれない」「床や棚の清掃が必要になる」といったところであろう。そして誰もが言うのである、「非常識だ」「狂っている」と。
 しかし、意図しない場所で小便が出てしまうケースでも問題にならない場合もある。デイケアや老人ホームを始めとする介護の現場では、自律神経と括約筋の都合でどうしても漏らしてしまう人々がいる。多くは大人用のオムツを履いているが、何らかの理由で着用していない場合には周囲に小便がかかってしまうし、その処理は施設の当たり前のようにスタッフによって行われる。これを問題視する人は少ないだろう。
 この違いは何か? 簡単に言えば、「立場の違い」である。介護施設では「利用者の世話」が業務に入っているため、やや不測の事態であっても、業務の一部として認識されている。一方、家電量販店の販売員には(当たり前だが)来客のシモの世話など業務に入っていない。つまり、業務内に入っていれば問題がないわけである。

 別の例で考えてみよう。ある人が自分の職場で性的に好みの異性に対して執拗なボディタッチをしたとした場合は、間違いなくセクハラである。訴えられたり解雇されたりしても文句は言えないと、ほぼ全員が答えるだろう(残念ながら現状「ほぼ」をつけなければならないのが現代日本の悲しいところである)。私のような男が不用意に好みの女性の肩など組もうものなら、相手方に間違いなく悲鳴を上げられ、逮捕間違いなしである。世間からのバッシングは計り知れない。
 しかし、性風俗やキャバクラなど、程度の差はあれど肉体的接触が想定されているような店であれば、それもまた「サービス」として認識され、問題視されることはない。これもまた、業務であるかどうかによって問題の有無が決まっているのである。いわゆる「一般常識」なるものを考慮する必要などなく、店側、従業員側がその行為を良しとしているかだけが論点なのだ。

 さて、話を今回の「マスク未着用」に戻してみよう。マスクを着けていない男性に対して店主は注意し、退店を促している。つまり店としては「許可できない」「迷惑行為である」「客としてふさわしくない」と認識しているのである。それを無視して自分の思想に基づいた言動をするのは、先の例に置き換えれば、「ここで小便をしたかったんだからしただけだろう」「好みのタイプだから触ったんだ、文句があるか」という理屈を展開しているだけに過ぎず、そこに正当性などは微塵も存在しないのである。

 結局のところ、「威力業務妨害」に当たるかどうかは、結局のところ「店」の立場や考え方によるものである。問題点が「マスク」であるために騒ぎが大きくなっているように感じているが、「店のルールに従わない人間は客ではない」という、ごく当たり前のことを理解できていないからこそ、警察が出動する事態になってしまっただけに過ぎないのである。


 「お客様は神様」という言葉があるが、すべての来店者が「お客様」なのではない。店のルールに基づいて正しく利用する人間だけが「お客様」としての待遇を受けられるのである。

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