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職業訓練校木工工芸科という所(8)

この数ヶ月をかけて角材を組み、枠を作る練習をしてきた。最近は板を組み合わせて升の形にする練習をしてきた。ちなみに材料はスプルース材を用いたが、これは外材で北米産のマツの類である。ホームセンターなどで売っているSPF材というのは、スプルース、パイン、ファー(モミ)のいくらか素性のよろしくないものだという。

木を組んでボンドでくっつけただけでも締結力は得られるのであるが、玄人ならばきれいに隙間なく組めたほうがいい。そのためのささやかな小技がいくつかある。
実際のところ最も単純な二方胴付きですら、これを隙間無く組むことはむずかしい。ちなみに、ホゾを差し込んだときに行き止まりになる肩の部分を“胴付き”と呼ぶようで、両肩があれば二方胴付き、三方向なら三方胴付きになる。

ぴたりと付けるコツとしては、この胴付きの部分を縁だけ残してへこませてしまう。この“逃げ”を作るという作業は非常に有効で、組んだ時に目に見えない部分は早速ノミで削ってしまう。ただちょっと手間はかかる。
もう一つ、重要な作業は“木殺し(きごろし)”と呼ばれる。これは要するに邪魔になりそうな場所をあらかじめ玄翁で叩いてへこませてしまうことをいう。

ただし玄翁の平面側で叩いてしまうとふちの部分で激しく木の組織が壊れてしまい、これはもう元に戻らない。曲面側で叩く。すると木の組織は壊れず、一時的にへこむが水でもかければ復活する。もちろん全力でぶったたいた場合には、どちらで叩こうが壊れる。

組んだあとに木が暴れるということも留意しておきたい。生きた樹であったときの生育環境によって材木の内部には様々な応力が蓄えられている。さらに材木を切断して新たな表面が露出し、その部分の含水率が変化すれば必ず新たな膨張収縮が発生する。

そういった面倒事が十分に考慮されて始めて、見栄えよく長持ちするものが出来るのだと思う。宮大工とかいう連中などは、山に植わっている木を見て癖を読みとることから仕事を始めるらしいが、今の私たちにとってそんな事を考慮に入れる余裕などはありはしない。加工手順を追い、形にするだけでいっぱいいっぱいな毎日が続いている。

板を升の形に組むにはさらに木表(きおもて)、木裏(きうら)を見ることが大事になってくる。これは次の機会に。

あとがき

私はこの半年間めいっぱい訓練に明け暮れてきたが、しかしそれ以外では思ったほどたいしたことが出来なかった。できれば帰宅後もどんどん木工品を製作し、フリーマーケットあたりでたたき売って一儲けしようと目論んでいたが、出来たのは自分の身の回りの小物と上履き用の下駄がせいぜいだった。で、この下駄の話を少しだけしたい。

下駄の材料は桐が多い。そのほか朴(ホオ)の木も用いられるらしいが、確かに”朴歯の下駄”という言葉は聞いたことがある。今回はホームセンターで入手できる桐を使ってみた。

本当であれば桐の分厚い板から下駄のかたちを削り出せばいいのだが、残念ながらホームセンターにはせいぜい二センチ程度の板材しかなかった。聞くところによると日本にはもう厚い板が取れるほどの大きな桐の木はほとんど無いらしい。桐材自体、多くは中国産であるという。

だが、下駄の歯を本体にのり付けするというやり方もあるらしいので、薄い板でも作れなくはない。上履代わりに学内で用いるつもりだったので木工用ボンドで事は足りる。外で履くのであれば他のボンドを用いるのがよいかもしれない。木工用ボンドは水に弱いからである。

下駄の歯の高さは3~4センチメートルが適正と思われるが付ける位置が少し難しい。完成品を横から見てみると前後対称にはなっていない。これは歩いたときに後ろのケリ足が具合のいい角度を取れるように、歯の位置が調整される必要があるという事じゃないだろうか。下駄は指先を曲げることが出来ないからだ。

こればかりはよく分からなかったので、私は巻き尺をポケットに忍ばせて、なにくわぬ顔で靴屋に入り、スキを見て大急ぎで採寸した。鼻緒の穴の位置も確認し、ダッシュで逃げた。そしてこのとき値段も確認した。じつに、それなりの下駄の値段は6000円から8000円もするのである。

桐の下駄などは使ってみればわかるのだが、あっという間に歯が減る。これは消耗品なのだ。消耗品にべらぼうな値がつくということは、下駄がすでに実用品から隔たってしまったことを示している。文化としてはすでに死んだのかもしれない。

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