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木工スケッチ(1)

過去に作っていたモノのうちブログに載せていたモノたち。今は作っていないかあるいは作れない。


001木の栞

木の栞。カバザクラ材。カンナのひきっぱなし。
加工の過程で,一ミリ程度の薄い木の板がでた時などに栞を作ったりする。
細々と売れるようなので,それならば何も薄い端材が出るのを待つ必要もあるまいと思い,カバザクラであらためて作った。
そしたら立川あたりの手作り市でいきなり何本か売れたのだ。
私は仕事場へ帰ると,悪いハイエナみたいな目でカンナの刃を研ぎ,一日かけて三十本ばかりの栞を作り上げた。
今のところ全く売れていない。


002クリオネ

携帯ストラップ。クリオネ。ケヤキ製。
材料はケヤキ。ストラップ部はヘンプ。
当初クリオネのはずだった。
そうなると信じていた。


003ウサギブローチ

ブローチ。ウサギ。クルミ製。
英語の勉強に,ピーターラビットの絵本をたくさん読んだ時期があった。
私は知らなかったのだが,ウサギばかりが出てくる話なのではなくて,本によっては違う動物が主人公をやっている。
動物たちの中には裸にチョッキなんていう姿をした者がいて,フォーマルな場では二本足で立って、十分に抽象思考にも耐え得る言語を話したりしている。ところがウサギたちは相変わらず農場のオッサンにウサギ汁にされたりしてるし,ネコはネズミを食べちまうし,大きなネズミは小さなネズミをフクロウへの貢ぎ物にしたりしている。
それぞれは知的というか文化的な生活を営んでいる連中でありながら,赤裸々な食物連鎖の関係を持ち込んでしまうとこんな感じのグロテスクな印象が出来上がるのだなあと当時は少し感心した。


004イルカ

ブローチ。イルカ。ブラックウォールナット製。
前に似たようなものを作ってなかなか売れなかったのだが,結局最後に絵描きさんが買ってくれたので私は少しだけ心を強くした。素人のデザインでもかまわねぇんだと。
だからもう一度作ってみて内心,(売れるだろ)とか思って府中アートマートに出てみたところ,ブローチどころかその他諸々も売れなかったので私の心の衝撃は計り知れないものがある。
土曜の府中は心底寒かった。
私は夜明け前に起きて,遠くの街角に文庫本を読みに行ったようなものだ。

帰ると徹夜仕事が待っていた。納期が迫っている仕事が一つあった。あくる日納品をすませると身体が常ならぬ勢いで震えだした。過労で熱を出したらしい。仕事場から歩けそうにないので,アパート前の路上に軽トラを止めて布団にくるまったところ,次の日になってお巡りさんに怒られてしまった。適当に車を移動して更に部屋で寝る。内臓と頭がやたらと痛い。

日が暮れて,やや楽になったので仕事場へ行ったら入り口のあたりでネコが死んでいた。仕事場の軒の、いつの間にか降りだしていた雨が滴り落ちてるその先に転がっていたものでビショビショに濡れていた。半開きの口から見えているギザギザにそろった歯が綺麗だった。ボロ布で包んで庭先の窪みに埋める。死後硬直というものを生まれて初めて実感した。なんと重いのだろう。雨夜にスコップをふるう気力はなかったので仕事場にとってあった灰をボササーッとかぶせた。囲炉裏の注文でもあったら使おうと前の冬の間に溜めておいた物だ。とっておきだったのだぞ,ネコめ。

古いアニミズムの思考からすると死はケガレであり,これに触れると禊ぎをせねばならない。黄泉平坂からもどったイザナギノミコトも海水で禊ぎをしたそうだ。そのとき鼻先だか睫毛だかから滴った水から,ナントカカントカいう神様がたくさん生まれている。私もカルキ臭い水で手を洗って口をゆすいでみたところ,貧乏神様が現れて,「あと八年苦しむだろ」なんて事を告げて消えた。
熱がグングンあがる。


005コースター

大き目のコースター。タモ製。拭き漆仕上げ。
もう少しいじると茶托(ちゃたく)として使えると思う。

一辺にのみ,へんてこりんな台形の部材がくっついているように見えるのは反り止めである。薄い一枚板というのは,まず間違いなく反るので,何らかの処置がいる。今回はツケブチとかハシバメとか呼ばれているやり方。お茶の道具なんかによくみられる

あの台形は接着剤でくっついているだけだろうか。否。内側には凹凸のミゾが刻まれていてはめ込まれている,これはこれで非常にめんどくさい仕口なのだ。ウチのように道具が足りないとピッタンコいかせるのに骨が折れる。手道具が頼りだ。

木目が面白いのは“アテ”の部分を使ったからだ。
斜面に生えた木の湾曲部や大きな枝を支える分岐の部分など力がかかる場所では木目が複雑に詰んだ堅い組織が出来上がり,一般に“アテ”と呼ばれている。分子のレベルでのお話をするとここではリグニンが増える。大雑把な木の躯体構造は鉄筋に相当するセルロースとコンクリートに相当するリグニンからなっている。アテの部分でコンクリ成分が増えるというのは,要するに堅くて脆い組織が出来上がるという事。

材料として使うには難が多い。
暴れやすい。ひびが入る。堅い組織が波打っているので何よりカンナが掛けづらい。拭き漆で仕上げる場合,面の荒れは目立つ事になるのでカンナ台をアレコレ調整する。
ただうまくいったときには,さすがに綺麗ではある。


006盛り皿

盛り皿。縄文の遺物に似せたもの。焼き杉。
時折売れるので,気が向いたときに作る。画像のものは4代目あたり。
材料は吉野杉と呼ばれる,けっこう木目の詰まったよいもので,以前に作ったダイニングテーブルの余り物。この材料がもうすぐなくなるため,この盛り皿もそろそろ作れなくなる。作る事はできるが値段がおそらく跳ね上がる。

一応盛り皿という事になっており,オイルを塗っているので多少の撥水はするのだがサラダなんぞを盛るのはお勧めしない。刺身などもやめた方がいいし,カレーもやめた方がいい。

以前買ってくれた方は,ホオズキなんかをトッピングしていたが,あの赤はすばらしかった。私も写真を撮るに当たって何か飾り付けをしようと思ったのだが私にはそのようなスキルがないようで、庭先で手折った葉っぱやらミカンやらをいじりまわしてみたけれどさっぱりお洒落にはならなかった。小学生あたりの方がおそらくうまくやる。

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