あたらしい生活
わたしはもともと自宅で仕事をしているので、電車通勤もないし、それまでの生活から大きく変わったことはなかった。
けれど、小さく小さく、日々は「あたらしい生活」へと変わってきている。
昨日の朝、窓を開けたらほんのりいい香りがした。ジャスミンの香り。うちの周りには、垣根や窓越しにジャスミンを育てておられる家が数件あって、その花々が一斉に香りを放っているのだった。
この時期の犬の散歩が、わたしはいちばん好きだ。どこの角を曲がっても、ふんわりあの香りが漂っているから。でもここ一か月は、外出=マスクが定着し、そんな楽しみも薄れているところだった。
うちのベランダまで届いていたなんて、花の香りってすごいなあ。毎年、あれだけ近くで嗅いでいたから、鼻が鈍感になっていたのかもしれない。でも、それだけじゃない。空気がキレイになったから。それが大きいと思う。
おかげで昨日は、飽きもせず何度もベランダに出た。花に水をやり、洗濯物を干し、ベランダを掃き清める。辺りがキレイになると、汚れたところが目につくようになる。ベランダの隅に集められた、使っていない植木鉢の山。形違いのほうき3本。ちりとり1。それらが埃と犬の毛にまみれている。
パッと見、それほど散らかしているわけではないから、そのままでも問題ないといえば問題ない。けれど、そこだけが「もやっている」ことは、だれが気づかなくともわたしが気づいている。
全部をどけて埃を掃き出し、水を撒いてブラシでこする。なんだ、きれいになるじゃん。調子に乗って排水溝まで掃除する。
こんなにさっぱりするんだ。その気持ちの変化に素直に驚いた。
ベランダの隅に溜まったほこりなぞ、意識しなければ誰も見ない。気にしない。でも「そこがキレイになったこと」を、誰よりわたしが知っている。
知っているだけで、心は豊かになる。あたらしい生活が始まっている。