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【ショートストーリー】ないしょなハート魔法

 わたし、向井かすみ。小学六年生の十二歳。
 ただいま、同じクラスの五十嵐くんに片思い進行中です。
 両思いになりたい、だなんてぜいたくなこと言いません。「おはよう」ってアイサツを交わせるくらいになれたらいいな、って思っているだけなのです。
 だけど、今日もやっぱりダメでした。
 ゲタ箱でせっかく会えたのに、友だちといっしょにいるカレをひと目見たとたん、ポーッとなっちゃって、チャンスを逃したと気づいたのは、カレが去ったあと。
 どうして、いつもこうなんだろう。
 たぶん、五十嵐くんとアイサツできてないのは、クラスではわたし一人です。
 内気な性格がうらめしい。
 このままずっと、お話できないのかなあ。
 そう思ったとき、ガックリしているわたしの肩を、だれかがたたいてきました。
 ふり向くと、そこに一人の女の子が立っていました。
 目がくりっとして、鼻の上のそばかすがチャーミングな子です。
 雨でもないのに、なぜかレインコートをしていて、黒ネコをつれています。
 こんな子、いたかな? 転校生?
「あなた、あの男子をスキでしょう?」
 彼女はいきなり、こう言ってきました。
「ええっ!?」
 わたしがおどろいていると、その子はニッと笑いました。
「そんなあなたに、おまじない魔女ココとっておきのおまじない、教えてあげる♬」

 その夜、わたしは彼女に言われたとおり、おまじないを実行してみました。
 と言っても、むずかしいものではなくて、とってもカンタン。
 願いごとをしながら、赤いリボンをちょうちょ結びにするだけです。
 そして、それを肌身離さず、いつも持っておくようにとも言われました。
《おねがいです、リボンさん。明日こそ、五十嵐くんとお話できますように。わたしに気づいてもらえますように》
 結んだリボンをベッドの枕元に置いて眠り、次の日は服のポケットに忍ばせて学校に行きました。
 けれど、五十嵐くんと話せないまま帰りの会になりました。アイサツが終わったとたん、五十嵐くんは友だちと教室を出ていってしまいました。
 おまじないは効かなかったのです。とても悲しくて、涙がでそうになりました。

 期待するから、ダメだったとき、よけいに悲しいんだ。
 こんなものに頼るんじゃなかった。どこかに捨ててしまおう。
 ポケットからリボンを取りだし、それを握りしめながら、わたしは教室を出て階段を下りていきました。
 ところが、なぜか、そのとちゅうで、握りしめていたはずのリボンが、わたしの手を離れ、ふわっと宙に浮いたのです。
「あっ」
 急いでつかまえようとしましたが、頭上を吹きぬけた風がリボンをあっというまにさらっていってしまいました。
 そして、それは蝶のようにヒラヒラと舞って――。
「やべー、忘れもの!」
 階段を駆けのぼってきた五十嵐くんの目の前に、ちょうど落ちていったのです。
「おっと!」
 五十嵐くんがハシッと両手でリボンをつかまえてしまいました。
「これ……向井のだろ?」
 カレは、まばたきもできないくらい、緊張しているわたしに話しかけてきました。
「あっ、あの、えっと、どっ、どうして知って……」
「向井、時々ポケットからだして見ていたから……なんか気になってさ」
 カレは照れくさそうに笑いました。
 胸がドキリとしました。

 わたしを、見ていたの……?

 ありがとう、ココ。
 踊り場の窓から見える空が赤く染まって、キラキラと輝いて見えました。
                                       おわり

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