苦心したものを読みたい

兼題にもとづいて〆切までに歌を書く場合がある。その時の心持と響き合う兼題だと連想をふくらませやすいし、〆切までの日常に体力気力の余裕があればなおよい。だいたい、どちらもそうはいかない。
思い浮かんだことばを書き留めるのに使うのはシャープペンシルとメモ紙。消しゴムは使わない。消している間に忘れるし、一旦消そうとしたことばをまた使うこともあるから。紙を大量に使うのでA6サイズに切り揃えたコピー用紙を備蓄してある。この時点では横書き。
もやもやしたことばのかたまりが出来てきたらそこから推敲はパソコンで。ここで横から縦書きになる。キーボードで入力しないと頭の中のごちゃごちゃを書き出して消す勢いに追いつけない。書いて消して書いて消して、印刷して読んで、また直す。辞書もひく。検索もする。散々やって結局最初の形に戻ることもある。疲れる。時間がかかる。でもこの書き方しかできない。
永田先生は「上手い下手じゃない、苦心したものを読みたい」とよく話しておいでだった。だから、これら一連の工程も無駄ではないのだと思いたい。

・自転車で駆け下る坂七月のこもれ日のごとく荒れた舗装を  十谷あとり

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