身体のことばで〈いま、ここ〉に戻る

わたしの頭の中は散らかっている。古家みたいになつかしいものでいっぱいで、どこもかしこも傷んで傾いでいる。ものを考えようとしてもなかなかまとまらない。物思いというのはだいたい明るい未来の方には向いていかない。傾いた床を転がるビー玉のように、過ぎたこと、済んだこと、取り返しのつかない方へと転がってゆく。こどもの頃からそうだった。そういう考え癖があるのだろう。
ただ、目の前にしなければならないことがあるのに、そんなよしなしごとで頭がぼんやりしてばかりでは、困る。自分を〈いま、ここ〉に連れ戻したい。そういう時、右手でゆるい拳を作り、第二関節のあたりで左手のてのひらをぽんぽんぽんと打つと、手と手が触れる感覚がトリガーになって、あ、そうだそうだ、と我に返ることができるということを、最近発見した。身体のことばで合図をしたら、身体が応えて助けてくれるのだ。実に些細なことだが、身体に通じる径路がひとつ見つかったようで、うれしい発見だった。

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