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梅すだれ

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恋も仕事も頑張る江戸女子、お千代の物語!ですが現在、猿彦や松之助など天草の隠れキリシタンのストーリーから、雑賀の国の物語が展開中。
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2024年6月の記事一覧

31-3 梅すだれ 御船/木花薫

矢形川は岸にいた舟で渡った。毎日誰かしらタケの豆腐を買いに来る。そのために舟がいるとも言える。船頭には豆腐を買いに来たことは明らかで、甘木側の岸へ着くと訊かれもしないのに、矢形側から枝分かれした支流の川に沿って八町歩いたところだと教えた。二人は礼を言い船賃を払って降りた。 船頭に言われたとおりに歩いていくと、大きな畑の中にぽつんと家があった。「ごめんください」と玄関へ入っていくと、ひょいと二十歳くらいの男が顔を出した。 「クラさんから教えてもらいました。豆腐をください」

31-2 梅すだれ 御船/木花薫

この頃の家に天井はなく家の上部は柱がむき出しで屋根の裏が見えた状態であった。床に垂直に立てられた通し柱の上部を水平につなぐ横木、差鴨居に板を張り床にして寝泊まりや物置に有効活用したものが厨子二階である。低くて狭いが小さな窓を開けることで換気がなされ、寝るのはもちろん座っている分には十分な空間である。 その二階へ上がるためにかけてある梯子の下へ行くと、お滝は「ご飯炊けたよ」と大きな声で叫んだ。もそもそとお桐が梯子の上に顔を出した。 「上へ持ってこうか?」と訊くと、「下で食べ

31 梅すだれ 御船/木花薫

ここ数日は涙も枯れて窓の外を眺めてぼんやり過ごしていたお滝。昼になると腹が減った。お桐が炊かないなら自分が炊くしかない。久しぶりに一階へ下りると鍋に米と水を入れた。 (ご飯を炊くの、何年ぶりだろう) 雑賀で握り飯屋を始めてからご飯はお桐が炊いていた。もう何年もご飯を炊いていないことに気付いたお滝は、お桐を御船に連れてきたことが悔やまれてならない。御船に来てからのお桐は厨房にこもって料理をしてばかり。雑賀ではお孝と遊んだり村の人たちと話したりしていたのに。 (雑賀へ帰ろうか

30-8 梅すだれ 御船/木花薫

マサが死にお滝は三日三晩泣き続けた。二階のマサが寝ていた場所に横になってマサのことを思い出している。

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