シェア
墨絵を描かなくなったお滝は寺小屋へ行っても退屈なだけで、また通わなくなった。朝は畑の野菜の世話をして、昼は父ちゃんに見つからない場所をぶらついた。家の裏の竹林を歩いていたが、ある日飯屋の畑へ通じる坂のことを思い出した。「飯屋へは行ってはいけない」と父ちゃんから言われているが、坂くらいならいいだろう。村の人があの坂を下りていくのを見たことがない。誰も通らない道をお滝は下りて行った。
それからというもの、お滝は寺小屋へ行くのが楽しくなった。墨絵を一日中描けるのだ。ほかの子どもたちが暗唱をしようとご院主の話を聴こうと、お滝はお構いなしに墨絵を描き続けた。ご院主もそんなお滝を咎めることなく、むしろ「境内に咲いている花を描いたらどうや?」と勧めるものだから、お滝は益々墨絵を描くことに熱中できた。