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有明海からの流れ者である与兵衛を見張っているのは天草藩の役人、源蔵である。夜明けの光に目を覚ました源蔵は与兵衛を見て仰天した。十日間も飲まず食わずでこのまま死んでしまうだろうと思っていたのに、憔悴して俯いたまま動かなかった与兵衛が目を開けて空を見ているのだ。子どもの頃に婆ちゃんから聞いた鬼が今目の前にいるのかもしれぬと、源蔵の背筋は凍り付いた。
海に面した高台で木に縛りつけられた与兵衛は、幾日も海風に吹かれて過ごした。 隣の木の下に座り込んだ役人に、 「口を割らぬか。死んでしまうと。話せば解いてやると言うとっと。」 と何度言われようと、与兵衛は原城のことを話さなかった。 全部で何人いるのか? どこに誰がいるのか? 益田四郎はどこにいるのか?