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「レディ・マドンナ(幻想曲)」(『このあいだ』第36号 2023/9)

 家賃はだれが工面するの?
 お金は天のお恵みだって思ったかい?

 貧乏を笑えるのは、貧乏を経験したことのある人か、 いままさに貧乏を経験している人ばかりだ。貧乏を知らない人が、貧乏のことを真面目な顔で「貧困」と呼ぶ。そんな風に指差されると貧乏人はそわそわする。 ブランド物は欲しいけれど、自分が「貧困」ブランドの顔になるのは落ち着かない。

 貧乏人にとって「常にいまし、昔いまし、やがて来られる方」である貧乏神は、日常彼らが寄り添い親しんでいる神であり、笑いであり、ガイドである。その他の神は貧乏人をその境遇から連れ出し、あるいは巨万の富を得させることもできるかもしれないけれど、たとえば人生に迷うとき、道しるべを与えるようなことはできない。貧乏神は、欠乏と、謙虚さと、そして連帯と慈悲を教える。おまけに反抗心も、残酷さも。至極真っ当なこの世の残り物であれば、なんでも分け与えてくれるのである。

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