マガジンのカバー画像

このあいだ(第003号 2020年12月)

2
フリーペーパー『このあいだ』第3号に掲載のエッセイを2本収録しています。
運営しているクリエイター

記事一覧

「意図」(『このあいだ』第3号 2020/12)

 妻の言い間違いに慣れてもう長い。  彼女が言い間違えたことは、これまでに私が蚊に咬まれた回数ほどあれど、 そのしばらくの痒みのあとはほどなくひいていくので、ひとつひとつの言い間違いは面白いのに、残念ながら記憶に残っているものはわずかしかない。  一戸建てを借りて住んでいたとき、2階から 「階段をひろってきて」と言われた。 洗濯物の山から落ちた靴下かハンカチーフを拾って、「はーい」 と上にあがった。  あるときはドナルドダックをダックスフントと呼んだ。いわゆる「ど忘れ」

「献呈」(『このあいだ』第3号 2020/12)

ラス・カサス、染田秀藤訳『インディアスの破壊についての簡潔な報告』岩波文庫、2013 マキャヴェッリ、森川辰文訳『君主論』光文社古典新訳文庫、2017  ぼくの娘は目ざとい。 何にか。 アルチュール・ランボーの詩 「永遠」 をもじって歌えばこうなる。  また見つかった  何が一  永遠が一  人様の投げ捨てたゴミさ  保育園への登園時、 そんなに散らかった道ではないのだが、 目を凝らせば植え込みの下などに空き缶やおにぎりの包装プラスチックゴミが見つかる。  娘は、