「ソッチ系」にモテる男

「俺ってさ、なぜかソッチ系の人には結構モテるタイプでさ笑」

あなたの周りにはこんな意味のわからない自慢をする男がいなかっただろうか。
少なくとも俺の周りには数人いた。
そう、一人ではなく数人である。

ソッチ系とは当然であるがゲイのことを指す。

彼らは恥ずかしげもなく"ソッチ系"の俺を目の前にしてそんなことを豪語するのである。

そういう自慢をする話の流れは大概こうだ。

1 恋人が欲しいがいい女性に出会わない。
2 女性は自ら求めても見つからないのに、"ソッチ系"には良く言い寄られる。
3 俺は、ソッチ系の世界では受けるらしい。

彼らがこんな自慢をする背景は何なのであろうか。

誰しも男にはモテたいという願いが心の奥底にあるように思われる。
モテない男とは、すなわち男としての魅力が足りないのであり、集団の中で弱い存在となる。

男は集団の中で自分の位置づけをしようとする。
男としての魅力を示す最も明確かつ簡単な指標は、その男がどれほどモテているか、である。

モテない男は、自分がモテないことを集団の中で隠そうとする。なぜならモテないことがバレると集団の中で弱い立場に追い込まれるからだ。

ここで"ソッチ系"の登場である。
俺は女性にはモテないのだが、「ソッチ系にはモテる」のだ、と主張することで「俺には本来、魅力があり、それに女性が気づいていないだけなのだ」と理論武装できる。

さらに恐ろしいのは、"ソッチ系"は"アーティスティック"で"人の本質に敏感"で、"流行の最先端"にいるというイメージがあるため、「ソッチ系にモテる」俺、とはすなわち"ダイヤモンドの原石"、"みにくいアヒルの子"状態であると示すことにつながるのだ。

「俺の魅力に気づかないのは、女性側のセンスに問題があるのであり、実際にセンスあふれるソッチ系の人間に俺は認められている」、とにおわせることができるのだ。

姑息なのは、大概の人には"ソッチ系"の知り合いはいないので、その男がその世界でモテるかどうかを確認する術がないことだ。
ここに、「コイツはモテなさそうではあるが、センスの良いソッチ系の人たちが好きなタイプなのであるなら実はコイツにも魅力があるのかもしれない」という錯覚の余地ができる。

実際のところはどうなのか。
俺の経験に基づくと、そういう主張をしている男は"ソッチ"系で受けるタイプではない。

結局のところ、だいたい嘘だ。

女性にモテないという部分を自虐的に面白く言っているように見せかけて、男としての魅力をすかさずアピールしようとする姑息かつしょうもない嘘だ。

そんな嘘をついていると、そんな薄っぺらい嘘をつくその人の人間性がただアホらしく、そして幼さがいじらしくすら思えてしまうのだ。

周囲の人たちに対し、どうせ裏取りは取れないであろうという前提で嘘をつくその精神、その思い上がりに薄っぺらさを感じてしまうのだ。

周囲にゲイは何人いるか、考えた事はあるだろうか。ゲイはみんなナヨナヨしていて見た目や話し方ですぐわかる、と思っていないだろうか。

あなたが「俺はソッチ系にモテる」と自慢している相手方が、あなたにカミングアウトしていないだけのゲイだと想像したことはあるだろうか。

「ソッチ系にモテるんだよね」と言われたところで当事者の俺としては、特に痛くも痒くも嬉しくも悲しくもない。ただ、そう言うことで、自らを貶めることになる、そこだけは認識してほしいのだ。

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