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『襷がけの二人』嶋津輝

工場を経営する富裕層の家に嫁いだ主人公と、その家の女中頭であった女性が過ごした、大正十五年(1926)から昭和二十五年(1950)までの長い歳月の物語です。嫁入りした当初は、実家との生活レベルの違いに戸惑い、夫との関係はぎこちなく、気苦労が絶えない中で、心の支えとなったのが、いつも親身になってくれる女中頭でした。しかし、戦争の時代は直接・間接にこの家に影を落とし、やがて彼女たちの運命は大きく翻弄されて行くのです。

長い歳月を8つのタイミングに分けて、物語が作られています。かつ、序章で後年の両者の関係を提示した後で、時に遡って次章から時系列になる、構成が巧妙です。また、家事、特に料理が物語を貫く軸になっていて、現実味のある生活感があり、主人公たちに親近感を抱かせます。

不本意だったり理不尽だったり、いろいろとぎくしゃくしたりする事はあるにせよ、基本的に主人公は厚遇されていますし、本人も懸命に努めていますが、それでもどうしようもないこともあります。両人それぞれが抱える赤面ものの赤裸々な秘め事が、実は物語を大きく左右する要因となっているのが、面白いと言っては語弊がありすが面白いところです。

そして何よりも、あの戦争が、主人公たちの人生を翻弄して行きます。戦時下のエピソードが具体的なリアリティをもって描写され、戦争の悲惨さと愚かしさをしっかりと実感させます。

長い歳月を隔てても、主従関係が変わっても、関係性は変わらないまま、互いに敬意を払っている、そんな両者の関係性が、かなり羨ましかったです。

[2024/08/28 #読書 #襷がけの二人 #嶋津輝 #文藝春秋 ]

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