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映画『ビヨンド・ユートピア 脱北』

仕事を午前中で切り上げて、シネマート新宿で「ビヨンド・ユートピア 脱北」を観てきた。

https://transformer.co.jp/m/beyondutopia/

まずハッと気付かされたのは、若い女性などの人身売買で値のつく脱北者は現地のブローカーが捌いてしまうので、そもそも韓国の脱北支援者に連絡は来ないということ。今回撮影されているのは中年夫婦と幼い娘2人、80歳の母親の5人家族。商品にならないから、金を払えば脱北を支援してやるということでブローカーから連絡が入ったらしい。

故郷よりも遥かに発展している青島やハノイの街を目の当たりにして、おばあさんが「金正恩元帥様はあんなに若くして偉大なお方なのに何故(故郷は他国よりも貧しいのか)?国民が悪いのかしら・・・?」と戸惑うシーンが印象的だった。故郷を出るまではその問いを立てることすらできなかったのだろう。

北朝鮮の国民が狂信的に指導者を礼賛したり、あまりにも画一的で狂いのない演技を披露したりする映像を見すぎているせいなのか、私は彼らのことを「厳しい統制を受けてきたせいで、物事を批判的に捉えたり論理的に考えたりすることのできない、単純思考の人々」と勝手に決めつけて、どこか見下していたように思う。けれども彼女は「『アメリカ・韓国・日本は敵だ』『アメリカ人は残虐な人殺し』と散々教えられてきたにも関わらず、撮影班のアメリカ人が自分たちに親切に接してくれることを現実として受け止めていた。「一見親切そうに見せて、このアメリカ人はやっぱり残虐な人間なはずだ」と決めつけるでもなく「アメリカ人が残虐なんで嘘だった」と簡単にこれまでの教えを捨てるでもない。これまでの教えと、目の前にした事実のつながりや背景を、戸惑いながらも時間をかけて思考することのできる成熟した人間だった。彼らが指導者を批判できないのは、馬鹿だからでも思考停止しているからでもない。自分たちの国の状況を理解したり他と比較したりするための情報が手に入らないのだから、自分たちが酷い状況に置かれていると認識するのは難しいだろう。

別の既に脱北に成功した女性は韓国で綺麗な家に住み、自ら車を運転し、シックな黒のトップスに身を包み、スマホやコーヒーマシーンを使いこなす、隠し撮りされた北朝鮮の人々の日常とはかけ離れた生活を手に入れたようだ。そんな中でも故郷の人々を思って悲しみ、10年会っていない息子の脱北の手引きに奔走して神経をすり減らしていて、未だ幸せを手に入れていないように見えた。

この映画では実際の脱北中の様子や、北朝鮮の人々を隠し撮りした映像がたくさん使われている。「再現映像なし」と謳っているだけあり、映像の用意できないところは分かりやすいアニメーションが使われているところから逆に、リアリティにこだわっている姿勢が伝わってきた。

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