6キロデート



「こんな暗闇に連れて行って、チューできるところを探してるん?」


すると彼は「そんなストレートに聞く?!笑」と言いながら満更でもなさそうな顔をした。



私は(「まずい。チューする気や・・・」)と思いながら歩いていた。





遡ること3週間前。

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令和最初の夏を1人で過ごすことに恐怖を覚えた私は焦っていた。

でも、普通のマッチングアプリをする気も起きない。

そこで最近よく聞くDineを初めて使ってみた。

Dineとは、「いいね送信」+「このお店に一緒に行かへん?」というお誘いがセットになったデーティングアプリである。

つまり、マッチング→実際に会うまでのスパンがとても短い。

マッチングし、日程交渉が終わると、Dineが予約をしてくれるという、いわばいきなりデートの顔が見れる版。

マッチングアプリのだるいやりとりをする必要なく、デートに漕ぎ付けられる。



2歳下の青年DはDineで初めてマッチングした男性だった。

初めてのアプリに戸惑い、よくわからぬままマッチングした青年Dは 180cmくらいだったと思う。

スペックはおいといて1枚目、2枚目の写真がいい感じだった。しかし3枚目は「あれ?これ同一人物?」って思う感じのちょっと腑抜けた青年だった。(決して不細工というわけではないが1、2枚目とギャップがありすぎた)

1枚目・・・下を向いた写真(服装おしゃれ。シンプル)
2枚目・・・3人並んでいる、真ん中がとてもイケメン(多分写真写りの良い真ん中がDなのでは?)
3枚目・・・正面からの写真(腑抜けてる!?)


ちょっとどうして3枚目がギャップあるのかよくわからないが、もう日程交渉まで行ってしまったので、当日までドキドキしながらデートを待った。




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当日。

普通のマッチングアプリと違い、Dineはマッチングした時点で、お店が決まっているわけで、マッチング〜出会うまでのやりとりの中でスムーズなのであまり相手のことを知らぬまま、待ち合わせ場所に向かう。

2枚目の写真の真ん中の人が来ると思うとドキドキした。しかし、3枚目の写真の腑抜けている人だったらドキドキしない(失礼)。

極度のイケメン恐怖症なので、心の中では3枚目の人が現れた方が気が楽で良いなと思っていた。


そして、運命の瞬間・・・・!!


服屋さんの前で待ち合わせした彼は



ジャじゃーーーーーーん!



3!!枚!!目!!!!!!


別にカッコよくもカッコ悪くもない至って普通な感じ。


ああ、気が楽になった・・・と思いながらお店に向かった。



(のちに判明するが、2枚目のイケメンは青年Dの親友であり、イケメンの隣に映っていたのがDだった)(絶対ひっかけ)


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青年Dは、年下だったが話しやすく、親しみやすい感じの男性だった。取り止めもない話をした。仕事のこと、休日の過ごし方、友達のこと元恋人の話。

普通に婚活あるあるな会話を楽しんだ。

そして好きなタイプの話になったとき「年上が好き」と言われた。

「自称年上好き」の年下の子とマッチングするといつも思うのだが、年下の男の子はどこか「年上女性」に憧れを抱いているというか、甘えたいという特性を利用して、「これをやったら年上女性が可愛いって思う」みたいなツボを抑えているから、気をつけなければならない。「カワイイ」「無邪気」と思わせといて、ふとした瞬間「男らしさ」を見せれば年上は落とせると思っている(気がする)、し、実際私もそれをされたらコロっと騙されてしまう。


(「ああ・・・・・・用心せなあかんタイプのやつやわ・・」)って思っていた。


1軒目の店を出てどうするのかと思っていたら「夜景見ましょう」と言われルクアの上の方に連れて行かれた。

(こいつぁきっと、ロマンチックな雰囲気に持っていって、あわよくばを狙ってやがるな)と用心しながらエスカレーターで上まで登った。

しかし正直、「夜景を見てロマンチックになりたがっているカップル」が大多数いて正直、全然ロマンチックではなかった。

そしてお互いの共通の趣味である筋トレの話や、有酸素運動について、カゼインやホエイプロテインについてなどを語り合った。

話も終盤になった頃、Dはでかいビルを指差し「あれ、俺が働いてるとこ」と行った。

どうやらDはなかなかの大手に勤めているらしいことがここで発覚した。

そしてきっとDはあのビルを見せるためにこのルクアの上まで連れてきたんだな、とちょっと可愛く思えた。



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その後、Dとは健全に解散し、毎日LINEをする仲になった。


私の中でLINEの仕方は

①チャット型

②文通型

と2分類されるが、Dは完全に①チャット型で、こまめなやりとりを好んだので1日に何通もLINEしていた。

※ちなみに②の文通型は長文で1日のやりとりは少ないがじっくりメッセージ交換するもの、①のチャット型は頻繁に取り止めもないやりとりをするものである。


好感触の彼とは毎日LINEの他に時々電話をしたり、「裕子の婚活史上一番良い感じなのでは?!」と思うほど順調に関係を深めていった。

そして、トントン拍子に「美味しいワインを飲みに行こう」という名目で2回目のデートになった。

しかし、この2回目のデートで6キロ大事件が起きる。



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デート2回目。仕事終わりに落ち合った。

平日だったので、定時に合わせて全速力で電車に乗った。そして最寄駅のトイレの中で全速力でメイク直しをした。

周りを見れば私と同じように、これから会食と思しき女性陣がたくさん鏡に向かい入念にアイメイクやらリップグロスやらを塗っていた。

心の中で(「頑張ろうな。お互い。検討を祈る」)と何から目線か分からぬ心境でエールを送り、いざ、待ち合わせ場所に向かった。



いつもなら、ビックマン前で、仕事終わりに待ち合わせしている男女が疎ましく、見たくない気持ちになるが、本日は自分が羨ましがられる立場であり、完全に浮かれていた。

なんせ”裕子史上最強にいい感じ”で進んでいる彼と会うのである。

現れた彼は、私が「スーツが好き」と言っていたのを覚えてくれていてスーツをきて着てくれた。程よく鍛えられた体×スーツが とてもカッコよく、初回、腑抜けたように見えた顔面もだんだんカッコよく見えるようになってきた。

お店に向かい、仕事終わりにこうやって店に来るのが大好きな私は完全に浮かれ、ワインをたくさん飲んだ。

一通りワインとディナーを楽しんだあと、この後どうする?という話になった。


普通であれば2軒目にいくものだが、彼はなぜか「スタバに行こう」といい、スタバでドリンクをテイクアウトした。


そして、彼は手を差し伸べた。

手を繋ごう というサインである。


ちょっとどきっとした。


画像1



物静かな道を歩く。


一体どこまで連れて行かれるのやら。私はちょっと不満になっていた。

もう10分以上歩いている。


なんせ6月、暑い。

クーラーの効いたところで飲みたかった。

酔っ払っていた私はイライラしていたのもありつい本音がぽろっと出てしまった。

「こんな暗闇に連れて行って、チューできるところを探してるん?」


すると彼は「そんなストレートに聞く?!笑」と言いながら満更でもなさそうな顔をされた。



私は(「まずい。チューする気や・・・」)と思いながら歩き、彼は黙っていた。



川沿いに出た。

梅田に詳しい人ならわかるだろう。梅田から下の方に行った川である。


片方の手を繋ぎ、片方の手ではスタバのカップをもち、肩には通勤バックを掛け、足はヒール気温は25度くらいだっただろうか。

そしてどこに向かうとも言われずただひたすら川沿いを歩いた。


もう完全にワインも抜けてただただ座りたかった。

というか帰りたい。でも最寄駅がどこからも遠い・・


一体彼はどこに連れて行く気で何をさせようとしているのか。

初回のデートのこともあり、何か目的があってロマンチックで二人きりの場所を探しているのだと思ったが流石に限界がきて、「疲れたから座ろう」と私はベンチを指差して言った。

そして、彼と座った。やっとコーヒーが飲める・・・汗をぬぐいコーヒーを飲みながら取り止めもない話をしていた。


すると彼が急に

「俺、整形したいんだよね」と顎を触りながら言った。


せ・・せ、せ、整形!?

(いや確かにちょっと最初はごめんやけど、腑抜けていると思っていたけど、そこまで気にするほど不細工ではないし、背も高いしスーツ着てたらパリッとしてかっこいいし、絶対モテるやろなって感じやし、実際今まで結構モテてきたみたいなこといいよったし、てめえは何をたかぶれたことをおっしゃっているんですか?いや、贅沢だよ、十分かっこいいやん・・)と思いながら


「整形、するほどでもなくない!?!」と私は言った。

すると

「目も二重にしたいしエラも削りたい。できたら韓流アイドルみたいな顔になりたいんだよね」

と結構がちなトーンで言われたのでふざけているのではなく、結構本気なんだろうなと思った。

そして私は、ガチな悩みにガチで答えてしまう性格なので

「そっか。でも、エラとか骨削るってなるとめっちゃ痛いっていうよ。ほら、有村架純のお姉ちゃんとかも芸能活動やすんで整形していたし。プチくらいならなんとかなるけど、エラを削るとなると、転職する前の休職中とか、そんなタイミングになるのかもね・・・」とわからないなりに一生懸命答えた。

一瞬、整形するために金を貸してくれとか、そんなこと言われるのかと思いきやそうでもなく、なんなら彼は超大手で働いているので、金をかさなくても自分でだいぶ稼いでいらっしゃるであろう方である。

なんでこんなカミングアウトを急にされたのかわからぬまま、そんなこんなでワインも抜けて冷静になってきてヒールで痛かった足もマシになってきたので立ち上がろうとすると、彼がさっと立って私の前に立ち塞がりキッスをしようとしてきた!!!!!


えええええ!!ちょっと待ってくれ。さっと顔を背けた私に、さっきまで整形のことで悩んでいた彼はしつこくキッスをしようと再び迫る。

「ちょっと、、私付き合ってもない人とこういうことしないから!!」

といい彼を振り解いた。


すると彼は悲しそうな顔をしながら暴露をした。


「俺、チューがめっちゃ好きやねん。ほんまは家にいたら唇がふやけるくらいずっとチューしてんねん・・・。」と言った。彼のキス魔が発覚し、彼はロマンティックな場所でキッスがしたかっただけだと判明した。


その後、チューを拒み続けると「さめた・・・・・」とぼそっと呟いた。


お酒が冷めたのか、私への愛情が冷めたのか不明だったが、私は(「私だって、仕事終わりにこんなに歩かされてチューされそうになって冷めたわ!!!」)と思いながら黙っていた。もうすぐ帰れる。円満なまま解散したかった。

その後、梅田から遠い川沿いをずっと歩き、やっと私の帰る路線のある駅について解散をした。およそ2時間弱ぐらい歩いていたと思う。


もちろんのこと、私は今後こんなキス魔でサイコパスな彼に遊ばれてアラサーの貴重な時間を無駄にしたくなかったので、4時間前まで煌めいて見えていた彼のスーツ姿をそっと記憶から抹消し、「キス魔」というレッテルを心の中で貼った。


そして、家に帰って万歩計を見ると、合計で6キロも歩いていた。


スクリーンショット 2019-12-01 11.58.52


裕子史上最強にいい感じと思っていたデートは、これにて「6キロデート」として幕を閉じ黒歴史と化したのであった。


完。

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