『映画クレヨンしんちゃん謎メキ!花の天カス学園』の感想とミステリコース再入学の手引きのようなもの(ネタバレ有)

 このNoteは、Twitter上であげた『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』のミステリ部分のネタバレをまとめなおしたものです。現時点では、DVD・BDが発売しておらず、記憶違いがある可能性が高く。確証はありません。
 まだ本作品を観ていない方は、このNoteを読む時間がもったいないので、今すぐ映画館に向かい天カス学園を観てください。
 観るまで絶対に読まないでください。

 稀に、天カスはミステリしていないという話を目にするのですが、
 天カス学園はフェアプレイの精神がある本格ミステリです。

はじめに
私は成仏した。


 『映画クレヨンしんちゃん謎メキ!花の天カス学園』は本来ならば、2021年4月23日GW公開予定が緊急事態宣言の発令により、7月30日に延期しました。

 本来は春アニメ映画が夏アニメ映画として発表するまで、映画クレしんファンは昨年秋公開した『激突!ラクガキングダ厶とほぼ四人の勇者』と同じく冬の時代を過ごしました。

(『ラクガキングダム』はラブライブ!などで有名な京極尚彦監督初参加作品で天カス学園とは違うベクトルの映画クレヨンしんちゃん史に残る大傑作アニメ映画なのでオススメです。)
 

 さて、今年は映画シリーズ初めての『学園ミステリ』がテーマです。『ラクガキングダム』の予告知ったときは腰を抜かしたと同時に喜びが沸き上がりました。
 2011年公開『黄金のスパイ大作戦』(ゲストキャラのレモンちゃんがハチャメチャ可愛い)でスパイものをされてから、ふと思いました。

「映画クレヨンしんちゃんで本格ミステリものが見たい」

 同時に無理だろうと思いました。なぜならクレしんはギャグアニメ。物語がシリアスになりがちなミステリとは合わない気がします。なるならば、きっとノリと勢いがあった明るいミステリアニメになると夢を見ました。
でも、もしも、出来るならば、せっかくミステリを扱うなら、多少ロジックがあったらいいな‥‥くらいの気持ちで、長年、生きていました。

そして、今年、成仏しました。

 まさか、これほどの優秀な青春ミステリになるとは思いもしませんでした。あまりに、ミステリとして上手い分、スロースタートにゲストキャラの多さや動くアニメ寂しさと本来のメインターゲットの小さなお客さんはマイナスポイントではないか?と心配になるほど。
キャラの印象付けが上手いから最後まで引っ張っていく力が強い。
再度、映画クレヨンしんちゃんは最高のエンターテイメントと実感しました。
 なにより謎解きがをメインにしつつ犯人判明して動機判明したらハイ!終わり!でなく、そこからが本作品の見せ場になる構成で脚本が上手すぎる。
キャッチコピーの『青春(ミステリー)の答えは一つじゃない。』まで、回収してしまい大満足です。
 ありがとうございました。

まだまだ語り足りないですが、そろそろミステリ部分の話をします。

以下、ネタバレのため、天カス学園を観ていない方は絶対に読まないでください。


ネタバレはノーエリート!
ちゃんと映画を観ましたか?



『ずぶ濡れ』になるトンデモ物理トリックがTHEクレヨンしんちゃんで好き。

予告時点で出された推理要素に
『隔離されたAIが管理する学園』
『壊れた時計時計塔での犯行』
『お尻の傷痕が出来た被害者はおバカになる』
ダイイングメッセージの『33』に当てはまるキャラが犯人
であるが明かされています。

ここに、
『ずぶ濡れの被害者』
『鉛筆』
『正しい漢字』
『赤い破片』
が証拠で登場します。
ここまでの証拠は作品でわかりやすく印象つけた登場をするため覚えやすいはず。

『33』に当てはまる犯人について。

犯人は、ナンバーワンエリートのサスガ君。
『33』が眼鏡を外した目の漫画符号という写真でしかわからない決定打が卑怯ではないか?
(そもそも眼鏡を外しても見えていることに驚いた。コンタクトなのかな?)
実は卑怯ではないことがわかりました。
『33』の漫画符号が無くとも最重要容疑者に絞ることが可能でした。

ずぶ濡れになる理由は確認が出来ていませんが、犯行現場が違うことは推理ができます。

 犯行現場が時計塔ではないことは、最初の時計の歯車が動いている場面から示唆されています。なぜなら本物の時計塔は壊れていて動いていないから。

 上手い小道具に『鉛筆』が登場します。
ネネちゃんが当てていますが、『ょかん』で『図書館』が犯行現場と判明します。ちなみに、鉛筆が印象的に登場しているシーンは図書館のみであり、学園ではタブレットを使用。
 風間君が吸けつ鬼に襲われた夜に自習で利用している筆記用具がタブレットとタッチペンだと確認できたので、ここからも鉛筆の入手経路が図書館であることがスムーズにわかるかと。

細かいところでは、サスガ君は校庭にモニュメントを掃除しているシーンがあり、もしかしたら、物理トリックのメンテナンスだったかもしれませんね。

これらから、犯行現場が時計塔ではない別の場所だという推理が可能。そして、ネネちゃんは頭がいい!

上手いミスリード

『赤い破片』のミスリードにまんまとひっかりました。ネネちゃんが「なにそれ、‥‥ネイル?」って言うから!信じていたのに!もちろん、赤いネイルで該当するキャラは、あげはさんのみ。
直前にスーパーエリート風間さんとしんちゃんの殺陣がフェンシングの動きだったから。
見事にひっかりました。
そもそも、しんちゃんは怪人の顔周りを荒らしていたため、付け爪が取れる可能性は低いという。
『赤い破片』の正体である『蟹の殻』を確定できるよう、三回もサスガ君は蟹を食べていたのに。

 眼鏡を外したサスガ君の目が漫画符号の33に目が行く前に、チシオちゃんのゼッケン番号にも『33』が含まれいることに気づき、そちらを優先してしまいました。見事にひっかりました。

『33』に当てはまらないキャラを限定していく。

ここから容疑者を絞りこむ要因に、
風間君は、番長に会っていないから番長が、33代目だと知らない。
風間君は、ろろさんの名前の『響き』は知っているが、名前がひらがなで『ろろ』だと知らない。
アゲハさんは赤いネイルのミスリードなどがあるも、33に当てはまらず動機がない。
学園長、スミコ先生も33に当てはまらない。
チシオちゃんは33のゼッケン番号が当てはまるが、トラウマで走れないし、風間さん失踪時にしんちゃん側にいるため違う。

また、怪人はスーパーエリート風間さん登場時に「我々の仲間になるのだ」と言っている。

そして、サスガ君が作ったアクション仮面だけ精巧な作りで、『板面』ではなく『仮面』と正しい漢字に直っている(おバカになっていない)

 パンフレットより、風間君が倒れていた場所とサスガ君が倒れていた位置が違うことや、サスガ君は風間君と違い、ずぶ濡れではないなどといった、風間君のときと犯行現場の様子が異なる点がありました。

決定打になる33の漫画符号の写真に気づけなくとも、しんちゃんが「オラ、犯人わかっちゃった」の場面の時点で、一番怪しい容疑者がサスガ君になってしまう。

クレヨンしんちゃんで本格ミステリしてるー!!!

謎解き部分の丁寧さはドラマ安楽椅子探偵を彷彿としました。

もしかしたら、背景にあるサスガ君が解いていた数式が物理トリックの数式だったら痺れます。私には全く分かりません。
あと、サスガ君自作自演のときは、どうやって鐘を鳴らしたのかが確認とれていません。石とか?

 今作は、あまりに細かい複線が張られており、まだまだ気づいていない点があると思います。
あるカットでは時計塔と図書館が地図上で繋がっていたことがわかり、入学の手引きの文章、ほかにも何気ない映像や脚本にヒントがありそう。
緻密過ぎて、怖い。
怖くて漫画『殺し屋1』に登場するおじさんみたいになっています。

天カス学園の凄さはミステリ部分だけでは無いのです。
犯人と動機が分かったカタルシスで終わったなら、
よく出来たミステリアニメで完成していたでしょう。

これは、映画クレヨンしんちゃんなので、最大の見せ場である、
マラソン大会がはじまります。


 正直、この部分が蛇足と感じる方はもいるかと思います。でも、青春は無駄の極みで、各キャラが自身と向き合うために必要な展開だった。

特に、風間君には必要な儀式でした。

 青春でテーマで締めるなら、サスガ君の動機で充分に説明が尽き、おしまいでもおかしくなかった。
マラソン大会からの『青春』への追求が素晴らしい。
 AIオツムンは、感情の無駄である『青春』がわからないため、皆に「青春は何か?」と解きます。
カスカベ防衛隊や野原一家らしい青春の定義に、ゲストキャラのミステリ部分で積み上げた個性がわかるから納得できる青春の定義が加わり、何より見ている観客に仰々しくなく「青春とは?」と説いている。
どれが正解でも間違いでもないぐちゃぐちゃでハチャメチャで誰にもわからないことが『青春』だと本作品からの優しいメッセージがありました。

 風間君からAIの力が失い、いつもの風間君に戻って、めでたし、めでたし。しんちゃんと仲直りして、日常に帰って終わっても本作品は傑作でしたが、天カス学園の快進撃は終わらない。

風間君としんちゃんの現在ある『青春』の一騎打ちがはじまります。

 映画クレヨンしんちゃんの印象的なラスト展開に、しんちゃんはよく走っています。『ラクガキングダム』パンフレットにあった京極監督の言葉を借りると『(略)理屈じゃなく「うぉー!」って、駆け出すんじゃないかなと思いました。』
 近年では『ラクガキングダム』で、有名作品なら『ヘンダーランドの大冒険』『オトナ帝国の逆襲』で、しんちゃんは様々な理由や背景があって全力で走ります。
しかし、天カス学園の最後に理屈じゃなく走り出すのは風間君。それにしんちゃんが追いかけるように走ります。

 既に、たくさんの方が感想であげておられますが、本作品は風間君だけが成長する物語。
だから、最後に青春のシンボルである焼きそばパンを手に入れることができた。
 風間君は、塾などで幼稚園やカスカベ防衛隊以外の広い人間関係を知っています。彼だけみんなより、少し賢くて、少し大人。だから、各々が成長してカスカベ防衛隊が将来バラバラになる現実の残酷さに悩みます。
 彼の「みんなで一緒に同じ学校に行けると思っていたのに!」「(カスカベ防衛隊は)そんなの今だけなんだよ」「いつかみんなバラバラになっちゃうんだ!新しい友達が!どんどんできちゃうんだ!」の叫びに心がギュッとなります。実際の現実は風間君の言う通りだから。
しんちゃんの彼の悩みへのアンサーの「全然わかんないゾ!オラ、今しかわかんない」に、風間君は「ああ!そうだろうよ!」と即座に返す。風間君は頭では厳しい現実を理解している。だけど、心は追いついてない。まだまだ五歳。いつか来る友達との別れが悲しくて当然でしょう。

 クレヨンしんちゃんは永遠の五歳児なので、風間君との別れは来ないと思われそうですが、しんちゃんが小学生になったエピソード『エンピツしんちゃん』や映画『超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁』、原作にあるターミネーター2パロディといった過去作品で、風間君は小学校受験をし、みんなと進路が違うことがはっきりしている。
天カス学園はこれらの過去作品の前にあたる風間君の成長の物語。

 風間君は近い未来が怖くて仕方ない。万能であるスーパーエリート風間さんも根本的な未来への恐怖はどうにもならない。もちろん走って解決しないし、焼きそばパンを一番に手に入れたら解決するわけでもない。
 風間君は、走ることで自分と向き合い、本音をしんちゃんぶつける。それに、しんちゃんも本音でぶつけ、二人は走りつづける。
しんちゃん今しかわからない為に風間君の気持ちがわからない。
そんなしんちゃんにイライラしていることを隠さず本音をぶつけ合える風間君としんちゃんの関係が眩しい。
いつか別れが来ても、いまこの瞬間が、二人の今の青春が、あまりに眩しい。

(この場面に劇場版レヴュースタァライトをの魂のレヴューが重ねて見えました。
英雄には試練を。聖者には誘惑を。風間君にはしんちゃん(悪魔)を。)

「ボクがいつか本物のエリートになったら、そのときまた、勝負だ」の言葉は、離れ離れになっても、また二人が未来で会う約束のように聞こえます。
 栄光の焼きそばパンは風間君が手に入れましたが、しんちゃんは焼きそばパンの焼きそばをだけを食べてしまう。青春のシンボルである焼きそばパンの焼きそばが無くなって、ただのパンになってしまいました。
新しい焼きそばパンが出来上がるまで、二人に青春がやって来るのはまだまだ先になりそう。

二人の青春に幸あれ。

天カス学園の脚本を手がけた、うえのきみこ氏が担当した映画クレヨンしんちゃん作品は
『バカうまっ!B扱グルメサバイバル』(2013)
『オラの引っ越し物語~サボテン大襲撃~』(2015)
『爆盛!カンフーボーイズ~拉麺大乱~』(2018)
『新婚旅行ハリケーン~失われたひろし~』(2019)です。
全部オススメ!!

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