「TAR/ター」感想(劇場)

「TAR/ター」感想(劇場)
(2023-05-13 TOHOシネマズ西宮OS・スクリーン5」

 予告編がメチャクチャ迫力ありそうだったのとケイト・ブランシェットの指揮者姿の格好良さに魅了されて期待しながら観ました。

 正直言うとハマらなかったな。ただ映画がとにかく凄いのだけは、特にケイト・ブランシェットの演技の凄まじさだけは実感出来た次第です。

もし本作にハマっていたとしても、同時に「人には全く勧められないな」とは思います。明らかに一般的な娯楽映画とは違う演出と脚本であり、長尺の映画でミニシアター系の芸術系映画を観るような感覚なので、安易には勧められません。

上映時間が158分と2時間半超えの長尺であり、アクション系娯楽映画ではなくこの内容で、しかもドキュメンタリータッチで主人公視点の物語なのでかなり時間以上に長く感じる要素もありました。

それ以上に、物語が主人公ターの視点から徹底して描かれているので普通の娯楽映画なら分かりやすく描かれているはずの人物関係やエピソードなどが大きく割愛されて敢えて「描かない」演出が取られている為に、かなり展開が分かりづらい内容になっていると思います。

その意味では2021年に実写映画でベストに選んだ「ファーザー」と似ている点がある。しかし、受けた印象は全く違っていて「ファーザー」はその年の実写映画の年間ベストに選んだのですが「TAR/ター」はベスト10に入らないと思います。

比較すると、「ファーザー」も少し難解だったのですがあれはアルツハイマーにかかった主人公の視点から描かれているのですが、その状況が分かるとあとはその違和感や混乱や難解さがそのままドラマの凄さと恐怖感に直結していたし内容も理解できる作品だったのです。

しかし「TAR/ター」に関してはその違和感や混乱が説明されないまま終わってしまっている、理解できないまま終わってしまった感じがあって観終わってもその点がマイナスとして引きずられていたわけです。

例えばある人物の出来事が後半で大きく響いてくるのですが、その人物の名前が「え?誰?」となるのです。もしかして自分が字幕を見逃していたのかも知れませんが、それまでドラマの中に出てきた人物ではないキャラが大きな意味を持って名前で語られるのですが、名前だけなので「え?誰?」となるわけです。

観続けているとその人物の出来事がどう主人公に絡んでいるのか?は分かるのですがドラマ的には全く理解出来ずハマれませんでした。

 個人的に感じたのは、全く同じテーマであっても通常のドラマ的演出と脚本であったら本作はおそらく「The Son/息子」と並んでベストに推せる作品になっていたと思います。

上記の後半で核となるキャラクターの話も前半できっちりとターと出会って語られるドラマとして描かれていたならば、後半でのあの展開も理解できるし衝撃の度合いも大きくなっていたと思います。

さりとて、私が望む「分かりやすい話」であった時に、今この作品を絶賛している多くの人たちが同じように絶賛していただろうか?とは思います。
つまり、この「分からなさ」が一つの監督の味であって作品の良さであると理解している人には、私の言う「分かりやすい話」は作品としての面白さを削ぐことになるかも知れないのです。

ことほど左様に意見が分かれる作品ですが、少なくともケイト・ブランシェットの演技と姿の満点さは同意して終わりたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?