「イノセンツ」(劇場)感想。

「イノセンツ」(劇場)感想。
(2023-07-29 シネ・リーブル神戸・劇場1)

 ノルウェー産の超能力スリラーホラー映画。

監督がどうやら大友克洋の「童夢」からインスパイアされた作品だと言うのと超能力を使う子どもたちの話って事で、10年ほど前の映画「クロニクル」をふと思い出して観に行こうと思いました。

先に観た人たちの絶賛が相次いだので期待感が半端なく高まったのですが、その期待以上の面白さであり怖さだったと思います。

 内容的には予想以上に「童夢」だったかなw ただ大友克洋の「童夢」が超能力バトルな作品になってるのに比べて、本作ではその様相は殆どなくてアート系作品か?と思う地味で淡々とした展開だった。
なのに観終わった感覚はまさに「童夢」だったのは見事だったな。

本作、派手な超能力バトルのシーンは無いのだが、逆に心理的な怖さを中心に「ホラー映画」的な恐怖感を煽るサスペンスフルな演出に作っていて、この怖さが半端なく怖いってのが素晴らしかった。

ホラー映画的怖さって意味では、本作中盤の辺りの展開は大友克洋の作品よりも楳図かずお、いや永井豪の作品とかに通じる禍々しさの持つ怖さになっていたと思う。

その意味では、非常に小規模で地味な内容なのだけど、だからこそ邦画でも同様の作品が作り得たんじゃないかな?と思うので若者向けの◯◯村とか島とか作ってばかりじゃなく、本気でこういう作品を作るべきだろうなと感じた。

そして心理的な怖さを中心に描きつつもラストの展開は熱くて、そこには「童夢」と通じる精神が見事に描かれていたのでトータルでは「童夢」のテーマと精神を映画化していると言える点が見事だったですね。

作品として見事なのは少年少女たちを中心に描きつつ、キャラクター設定とその配置が見事すぎてそれぞれに能力や個性が与えられていて、それぞれの見せ場がきっちり配置されている辺りが脚本の見事さと感じた次第です。

「童夢」にインスパイアされた作品との前情報だけで観に行くと「なんだ派手な超能力バトルとか無いじゃん」って失望に繋がるかも知れませんが、個人的にはその方向性で作られたハリウッド映画の「クロニクル」も好きなんだけど真逆の方向性の「イノセンツ」も好きだな。

なので「イノセンツ」に不満を感じてもっと相手をコンクリの壁に「メリ」とのめり込ませるような念動力の超能力バトル的なのを観たいんだったら「クロニクル」が超お勧めですね。




※以下、ネタバレがあります。




 この映画、「童夢」にインスパイアされた作品って事で最後は団地で殴り合ってコンクリの壁に「メリ」とめり込むような叩きつけ合いの超能力バトルがあるのか?と思っていたら全くそういうシーンはなかった(^_^;)

確かに途中で相手の足を超能力で折るシーンもあったけれどそこまでで、後半からは第三者の誰かを操って狙った相手をそいつに殺させるような他人の遠隔操作が出てきて「ほほう。そういう手でくるか」と「童夢」とは違ったホラー的怖がらせ方で興味が惹かれた。

もちろん、そうじゃなくて直接誰かを念動力を使って倒す・殺す展開の方がアクション的には良いんだろうけどそういう方向性じゃない、少年の持つ無邪気な邪悪さの怖さを描くにはそっちの方がサイコ・サスペンス的で小規模作品には似合っていたと思う。

 登場する子供たちが4人で、それぞれ個性があって主人公は能力が無い(最後のギプス壊す所と歩ける所は能力覚醒したって事か?)んだけど姉が念動力を持ち、テレパシーを持つ少女がいて、そして念動力と人を操る能力を持つ男の子が居る。

それぞれが同じ能力を持っててその能力の強弱で能力差がある、って感じが超能力バトルものだと多いんだけど、この作品の場合はそれぞれに能力の違いがあって互いに戦うにしても方法が違ってくるって事と、それぞれが子供なので思い通りに思った時に行動出来ずに親の指示による制約があるって辺りが難しい点を産んでて面白かったな。

クライマックスなど、あの晩に先手を打ってたら勝てたのに、とか(^_^;)

おそらくタイトルの「イノセンツ」は子供のもつ無邪気さを言い表しているんだろうけど、子供が無邪気だからこそストレートに怒りや恨みを相手にぶつけてしまってコントロールが効かない怖さを感じさせる。

この点は超能力を使う事よりも、例えば猫を踏み殺すあのシーンで突然現れた凶暴性への怖さの方がより明確に出ていたかな。

それまで淡々と進んでいてさほど怖さは感じなかったのが、あの辺りから一気に不穏さ爆発してきて「嫌」な話になっていった感じだな。

 最後、姉と妹2人が揃って手を握るだけでなく、あちこちの子どもたちがこっちの様子を見ていて「協力」してくれているような感じだったのはどういう事だったんだろうかな。

姉のテレパシー的な能力が広がって回りに居る「アンテナ」を持ってる子どもたちに繋がって、互いに能力を増幅しあってあの少年に念を集めて倒したって事だろうか?とか考えつつ。

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