旅行記⑤

目を開けると電車は藤枝を出発し、六合へ向かっていた。

余談だが、この六合駅の付近では、1960年に新幹線開業に備えた高速度試験が行われていた。
なんせ営業運転における最高速度200km/hというのは、世界的にも一部の試験を除けばほとんど前例が無いからだ。

その試験車両としてクモヤ93型架線検測車が用意され、レールや枕木、架線なども新幹線用の高速度、高負荷に耐えるものに交換、またこのクモヤ93も新幹線用のパンタグラフに交換し、高速度試験用の電動機や川崎重工製の特製台車を装備、狭軌鉄道における世界最速記録となる175km/hをマークした。
……ん?全然200km/hに届いていないじゃないか!って?いやいやこれはあくまでも「狭軌鉄道(線路の幅が狭い鉄道のこと。この場合1067mm)」における記録。これを「標準軌(線路の幅が広い鉄道。この場合は1435mm)」に拡大すれば、余裕をもって200km/hを越える営業運転が可能であると結論づけられたのである。

https://twitter.com/SCMaglevRailway/status/1462194042352005126?t=r90HU2WK3Etiwwg2rVSo-Q&s=19

このなんともおとぼけな表情をした車両だが、実はあまりにも偉大な功績と記録を残しているのだ。

よくロボットアニメなどで高性能過ぎる試作機というのがよく出てくる(そして非現実的という批判がされたりもする)が、こと鉄道の世界ではこのクモヤ93を始め高性能過ぎる試作機というのは全く珍しいものではない。鉄道の場合「あってはならないもしも」を絶対に起こさないという意味合いもあり、目標となる数値を余裕で達成出来る性能が求められるからだ。例えば500系新幹線などは営業運転において300km/hを出していたが、その試作車にあたるWIN350は350km/hでの走行が可能なよう設計されている。量産車にあたる500系自身も設計上の最高速度は320km/hとされていることから、安全マージンが見込まれているとわかるだろう。

島田駅を出て大井川を渡る。ここは旧東海道の時代から続く難所で、橋をかけられなかった江戸時代はお金を払って人を雇い運んでもらっていた。また川が増水すれば川留めといい、川を越えることが禁じられた。このことから島田の宿場町はかなりの賑わいを見せたという。
「箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川」というのはあまりに有名な唄だが、今となっては大井川橋であっという間に渡ってしまう。

鉄道唱歌においてもこのように歌われている

春咲く花の藤枝も
すぎて島田の大井川
むかしは人を肩に乗せ
渡りし話も夢のあと

東海道五十三次の頃の旅人が今の交通手段を見れば何と言うのだろうか、驚くだろうか、便利だなぁと喜ぶだろうか……

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