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蓮と漢文

日本で蓮といえば仏教的な意味合いで親しまれている花ですが、中国にも蓮にまつわる文章がのこされています。中国宋代の学者である、周敦頤(しゅうとんい)の「愛蓮説」という文章が有名です。これは読んで字の如く「蓮を愛する」ことについての文です。(「」内は原文の訳)

「陸上にも水上にも愛すべき花はとても多い。晋の陶淵明は独り菊を愛した、唐代よりこのかた世の人々は甚だ牡丹を愛している。」どうやら牡丹好きが多数派の世の中だったようです。

蓮塘図

(この絵は近所の風景をもとにイメージで描いたものです。そのため葉の形が本物とは違います。本来はもっと大風でひっくり返った傘のような形をしています。)

「蓮の泥から出て泥に染まらず、清いさざなみに洗われて妖艶ではなく、茎が中空で直く、蔓も枝もなく、香しく遠くしてますます清らかであり、直立して浄らかに植っている、遠くから見るべきであり、徒らに弄ぶことができないのを私は独り愛する。」蓮をこれでもかと称えています。しかし描写が巧みですね。私はとくに「清いさざなみに洗われ(原文:濯清漣)」の句が好きです。「さざなみ(漣)」という字があるのも驚きですが...

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(同じ場所でスケッチしたもの。蓮の花びらは白い部分があるからこそ美しいのだと思います。)

「私が思うに、菊は花の隠者である。牡丹は富貴のものである。蓮は花の君子である。陶淵明以後菊を愛するものを聞くことは少ない。蓮を愛することで私と同じなのはだれであろう?牡丹を愛する人はまったくもって多い。」

ちょっと蓮派(そんな派閥があるのかは知りませんが)は不遇(?)だったのでしょうか。なんか牡丹人気がすごそう...確かに中国は絵画でも牡丹は多いですね。

スキャン 7のコピー

さて、こちらはカバー画像に使った版画です。これは実はゴム版で刷っています。手前には一面の蓮田、橋を渡ると柳、奥には桃。先ほどの原画をもとに作りました。

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その2 柳がいい味を出しているかと思います。柳というと、古代中国では柳を送別のしるしに手渡す習慣があり、それをふまえてか、唐代の詩人王維の送別の詩に、「客舎青青柳色新(はたごやの柳が青々としてますます鮮やかである)」という句が出てきます。

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その3 よく見ると赤い実があります。桃ですね。桃についていえば、中国最古の詩集『詩経』に「桃夭(とうよう)」という詩があり、
そこでは桃を若い娘に例えて歌っています。同じく中国では「桃符(とうふ)」という桃の木で作った魔除けもあるとか。
あとは、言わずと知れた昔話「桃太郎」…。話はつきませんが、桃は生命力の象徴なのかもしれません。

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版画ではかすれてよく読めませんが、画賛として、「雨微蓮帯露(雨微かに蓮露を帯ぶ)」と添えてみました。

実はこの句は「平仄」という漢詩の音の規則に則って作られています。

漢字には全て音があるわけですが、その音のトーン(声調)によって漢字を「平」と「仄」二ついずれかのグループにわけます。

そして一句五文字の詩では、第二文字と第四文字は違うグループの字を使う必要があります。すなわち、二字目が「平」グループなら四字目は「仄」グループに、二字目が「仄」グループなら四字目は「平」グループに。というようにです。そして下の三文字は同じ音のグループ、(「平」「仄」)を連続させてはなりません。

改めて「雨微蓮帯露(雨微かに蓮露を帯ぶ)」の句をその「平仄」のルールでみてみると、「仄平平仄仄」になっていて、ルールを守っています。(パズル感覚で確認してみるといいかも)漢詩、とくに唐代以降の詩を読んでいく上では重要な規則になっています。

蓮からずいぶん話が脱線しましたが、今日はここまで〜






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