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【パラ陸上 | あれこれ #18】世界の脳原性麻痺スプリンターが熱い!

東京パラリンピックが閉幕しました.

パラ陸上競技は,大会3日目に初日(8月27日)の競技が開始され,9月5日のマラソンまで10日間にわたり熱戦が繰り広げられました.

パラ陸上4日目には,義足スプリンターの最速を決めるT64男子100m決勝が行われ,ドイツ🇩🇪のフェリックス・シュトレング選手が10秒76(+0.3)で優勝しました.予選でパラリンピック記録を出して好調さを伺うことができていましたが,決勝でも4位まで0.03以内に選手がひしめく激戦を制しました.

どうしても義足の選手に注目がいくので異なる競技クラスにも目を向けてみましょう.

今大会,立位で競技を行う脳原性麻痺のある選手が出場する競技クラスで好記録が続出しました.該当する競技クラスは,T35から38です(30番台は脳原性麻痺のある選手を示し,数が小さい方が障がいの程度が重いことを示します).下記には,日本パラ陸上競技連盟がHP上で示しているクラス分けのイメージ図を抜粋しました.

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障がいの程度が軽い競技クラスから振り返ってみたいと思います.

まずは男子 T38m 100m 決勝(±0.0)で,イギリス🇬🇧のYOUNG Thomas選手(2000年生)が10秒94のヨーロッパ記録で優勝しました.2位は中国🇨🇳のZHU Dening選手(1999年生)で自己記録となる11秒00(=10秒994)を記録しました.3位はオーストラリア🇦🇺のO'HANLON Evan選手(1988年生)でシーズン記録となる11秒00(=10秒997) を記録しました.下記はその動画です.YOUNG Thomas選手は今シーズン好調でヨーロッパ選手権でも好記録(11秒03;+0.3)で優勝し,その勢いのままパラリンピックチャンピオンになりました.深い前傾を保ちながら走るのが特徴です.

女子 T38 100m 決勝(+0.1)で,イギリス🇬🇧のHAHN Sophie選手(1997年生)が12秒43の記録で優勝しました.彼女は予選2組目で世界記録となる12秒38(+0.4)を記録しました.2位はコロンビア🇨🇴のJIMENEZ SANCHEZ Darian Faisury選手(2000年生)で南米記録となる12秒49を記録しました.3位はドイツ🇩🇪のAVE Lindy選手(1998年生)で自己記録となる12秒77を記録しました.これまではHAHN Sophie選手の独壇場でしたが,JIMENEZ SANCHEZ Darian Faisury選手が接戦に持ち込んだこともあり,今後,力関係が逆転していく可能性もあります.

男子 T37 100m 決勝(+0.3)で,アメリカ🇺🇸のMAYHUGH Nick選手(1996年生)が10秒95の世界記録で優勝しました.彼は午前中の予選2組目で10秒97(+0.1)を記録し,T37男子100mの選手で初めて10秒台を記録しました.それまでの世界記録が11秒21であったことを考えると飛躍的な記録であったと言えます.同日に10秒台を2回記録した初めてのT37スプリンターとなりました.2位はロシアパラリンピック委員会🇷🇺のVDOVIN Andrei選手(1994年生)でヨーロッパ記録となる11秒18を記録しました.3位は,インドネシア🇮🇩のPURNOMO Saptoyoga選手(1998年生)で,アジア記録となる11秒31を記録しました.

女子 T37 100m決勝(+0.4)で,中国🇨🇳のWEN Xiaoyan選手(1997年生)が 13秒00の世界記録で優勝しました.2位はアメリカ🇺🇸のROBERTS Jaleen選手(1998年生) で北米記録となる13秒16を記録しました.3位は中国🇨🇳のJIANG Fenfen選手(1997年生)で自己記録となる13秒17を記録しました.WEN Xiaoyan選手の速報記録は12秒99であり,このクラスでは12秒台突入が間近になっています.

男子 T36 100m決勝(-0.1)で,中国🇨🇳のDENG Peicheng選手(1996年生)がパラリンピック記録となる11秒85で優勝しました.世界記録まで0秒13に迫る好記録でした.2位は,オーストラリア🇦🇺のTURNER James選手(1996年生) で12秒00でした.彼はこの競技クラス100mの世界記録(11秒72)保持者であり,予選でも11秒87(+1.3)を記録していましたが,スタートで出遅れてしまったことがレースに大きく影響を及ぼしました.3位はアルゼンチン🇦🇷のCHAVEZ Alexis Sebastian(2002年生)で,12秒02を記録しました.彼は予選で南米記録となる11秒91(+1.3)を記録しました.

女子 T36 100m決勝(-0.6)で,中国🇨🇳のSHI Yiting選手(1997年生)が 13秒61の世界記録で優勝しました.自身が保持する世界記録(13.68)を更新しました.2位はロシアパラリンピック委員会🇷🇺 のIVANOVA Elena選手(1988年生)で14秒60を記録しました.3位はAITCHISON Danielle選手(2001年生)で14秒62を記録しました.彼女は予選1組目でオセアニア記録である14秒35(-0.3)を記録しました.

男子 T35 100m決勝(±0.0)で,ロシアパラリンピック委員会🇷🇺のSAFRONOV Dmitrii選手(1995年生)11秒39世界記録で優勝しました.2位はウクライナ🇺🇦のTSVIETOV Ihor選手(1994年生) で11秒47を記録しました(従来の世界記録は11秒77).3位はロシアパラリンピック委員会🇷🇺のKALASHIAN Artem選手(1996年生)で11秒75を記録しました(従来の世界記録は11秒77).このレースでは,上位3名が従来の世界記録を更新しました.

続いて,女子 T35 100m決勝(+1.2)で,中国🇨🇳のZHOU Xia選手(1999年生)が13秒00世界記録で優勝しました.2位はオーストラリア🇦🇺のHOLT Isis選手(2001年生)で13秒13のオセアニア記録でした.3位はイギリス🇬🇧のLYLE Maria選手(2000年生) で14秒18のシーズン記録でした.この3人のライバル関係は続いていくものと思われます.

男子はT37とT35で世界記録,T38はヨーロッパ記録,T36はパラリンピック記録が記録されました.女子はT38からT35まで全ての100mで世界記録が更新されました.

脳原性麻痺による運動機能への障がいの状態としては,全体的に筋緊張が高い傾向で,手足の協調動作が難しくバラバラに動いたり,バランスが取りにくくい状態であったり,身体が硬い状態であったり,自身の意思とは関係なく姿勢が崩れたり身体が反応してしまったり,場合によっては知的機能に障がいのある状態であったり,様々な状態が想定されます.

パラリンピックでは,一見すると通常の動作ができているように見える選手もいますが,各選手障がいの状態を理解して普段のトレーニングを行い,身体機能を高めてきた成果を発揮していると思います.

今まさに,脳原性麻痺スプリンターが熱い!と言えます.選手の今後の動向に注目です.

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