日本で働くことをコスト面から考える
今も学生たちの就職活動は続いている。
この時期になってくると焦りの色が顔に滲み出てくる。
そうなると、ますます就職活動の結果がよろしくない方向に向かう。
私は毎回、学生の皆さんにこう伝えている。
「今の日本で、そんなに焦っても仕方がない。
想像以上に日本は弱っているし痛んでいる。
学生の皆さんが気づかない部分が山のようにある。
しかも、それはマイナス面。
就職活動で見える社会や会社の範囲、現状認識など所詮、氷山の一角に過ぎない。
もしかしたら、就職できない方がよい方向に向かうかもしれない時代なのである」
学生の皆さんに知って、考えてもらいたいことはたくさんある。
その中でも一番強く私が思っていることのひとつを紹介する。
それは
「自分たちが働くということは、会社から見たらコストになる」
ということだ。
今、日本の企業は規模の大小を問わず、コスト削減に躍起だ。
コスト削減に意識が向いていない企業はない。
それだけデフレ傾向もあいまって、日本の中の経営環境は厳しい。
世界的な景気後退の波に飲まれたり、産業構造が激変する中で、超安定飛行に見えていた企業でもある日突然、民事再生になったり、倒産で会社が消滅してしまう。
仮にそこまでいかなくても、大幅なコスト削減の特効薬である人員削減は日常茶飯事といっても過言ではない。
最近でも、JALの再生ストーリーは多くのことを示唆してくれる。
直近の2011年3月度の業績は過去最高利益が出たとの報道。
1年前まで青色吐息、国も関わっての大再建中の会社で何が起こったのか?
売上は下がり、空前の利益を生み出した最大の要因はコストカットだ。
しかも、その中で一番比重が大きいのが間違いなく人件費だろう。
私たちの若い頃、絶対的な聖域の職業、憧れの職業と思っていた。
パイロットまでがリストラ対象になる事態なのである。
とはいえ、古今東西、どこの国でも、経営者の目線から見れば、常にコスト削減は当たり前なのである。
業種業態によって、多少の差異はあるにしても、ほとんどの企業の最大の費用項目は人件費なのである。
社会に出て会社で働き出す前の学生の目線では、なかなか気づかないだろう。
ドライな部分だけ切り出して言うと、社員になるということは、コスト管理の対象になることと同様だ。
自分自身が当該会社に入社することは、会社経営の目線から見たらコスト増の要因であることをすぐに理解することは難しいと思う。
働き出して数年かかるかもしれない。
実体験が伴う必要があるのである。
視点を変えてみる。
日本の人件費水準を世界目線で見たらどうだろうか。
学生は意外と知らないが、日本は、世界で一番人件費が高い国なのである。
それだけ国力があり、豊かだから問題ないのか?
答えはノーだ。
それは、上手く経済が成長軌跡で動いていた時の話に過ぎない。
世界一高い人件費が、これからの日本経済の足枷になっているのである。
実体経済と見比べてみれば、バランスが崩れている。
すでに喫緊の問題であるが、日本はアジアマーケットに進出しつつある。
実感としては、“せざるをえない”側面が今のところは強い。
だが、この高い人件費を前提に長年経営を組み立ててきた企業が簡単にアジアで勝つことができるだろうか?
企業体力面で、勝負する前からすでに負けているかもしれないのだ。
単純に考えてみよう。
例えば、日本の飲食企業がインドネシアに進出して、その国のマーケットで勝負する時に、日本の人件費をベースに利益が出せるだろうか?
超高級店などの例外をのぞき、それは不可能に近い。
当然、ローカル価格で勝負するためには人件費もできるだけローカル化しないと、競争の土俵に乗ることすらできないのである。
これからは、アジアに日本企業がますます進出する。
これで景気が良くなって、雇用拡大が見込めるようになると思われる。
しかし、これは今まで説明したような理由で成立は難しいだろう。
こんなことは、日本の中の事例でも、考察のヒントはいくらでもある。
牛丼が2年前に比べて一杯100円以上値段が下がっている。
消費者としては嬉しいことだろう。
しかし、学生の皆さんは考えてみて欲しい。
値下げ前ですら、一杯当たりの営業利益は5円程度と言われている業態だ。
それが、なんと100円もの値下げ戦略。
もし自分が、そのギリギリの値段で勝負する会社の社員だったらどうだろうか?
容易に想像できるだろう。
大変な仕事である。
高いコストの人件費ではやっていけない。
だから、それに見合う相当な努力が必要なのである。
(本記事は、ブログ「近藤昇の会社は社会の入り口だ」に、2011年6月21日に投稿したものです。)