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エクセルが中小企業のIT化の足を引っ張る!?

 中小企業のIT活用の現場で最も利用されている定番ソフトと言えば、マイクロソフト社のエクセルである。これには、ITの専門家でなくても異論はないだろう。実は、中小企業のIT活用を失敗に導いているのも、やはりエクセルだと言ったら、読者の皆さんは驚かれるだろうか。
 エクセルは言うまでもなく、表計算ソフトである。最近ではデータベース機能まで完備しているので、本格的に使いこなせば、顧客管理、販売管理、給与管理などの簡易システムとして運用することも可能だ。使い手の能力が高ければ、これほど投資の対費用効果が高いソフトも珍しい。中小企業の現場では、どの会社にもエクセル好きが1人や2人はいる。そうした人が社内のIT担当者として独力で勉強し、エクセルを高度に使いこなしているケースには、ごくまれにお目にかかる。だが、残念ながら「チーム」としてエクセルを有効に活用している事例は、私のこれまでの経験では皆無だった。

 エクセルの“被害”にあった建設会社の事例をご紹介しよう。社長がIT化ブームに乗って社内の業務の効率化、合理化を目標に掲げ、管理系の社員20名に一人一台パソコンを与えてLAN接続にした。もちろん、目的は業務の効率化によるコスト削減だ。今までの手書き作業や集計作業を効率化して、作業時間の短縮や文書の共有化につなげようというわけだ。

 ところが、結果として、この会社の生産性は逆に低下した。簡単に整理してみると、失敗の経緯はこうだ。まずは、よくあるお決まりのパターンだが、外部講師を招いて全員にエクセルを習得させた。ここまではよかったのだが、この先がいけない。社長がこういう指示を社員に出してしまったのだ。「君たちはエクセルの操作はできるようになったのだから、後は個人個人の判断でエクセルシートを活用しなさい。そして、いままでの仕事の無駄を省いて、業務時間を短縮しなさい」…と。

●瞬く間にエクセルシートの山が積み上がる

 一見、正しい指示のように思える。実際、中小企業のIT活用の現場では、こういう指示は別段珍しくもないだろう。ところが、半年ほど経ってみると、一向に残業時間が減らない。それどころか、むしろ増えている。社長は、慌てて現場を精査してびっくり仰天。似たようなエクセルシートの山が各自のパソコンに“秘匿”されていた。つまり、半年もの間、何人もの社員が同じような集計表を一生懸命作成して、上司に提出していたのだ。

 これは、依頼する上司の側のマネジメント力の問題も大きい。エクセルを使うと簡単にデータが集計できてグラフ化もラクラクなので、体裁の良い資料を作りやすい。そこで、やれ社内会議だ、やれ外部へのプレゼンだという度に、「こんな資料を出してくれ」「あんな資料を出してくれ」と、上司が思いつきで部下に指示を出す。結果として、部下の業務量はどんどん増えていく。

 データの二重、三重入力の問題も、中小企業のIT活用の現場では、一向に改まらない悪弊の一つだ。ここでも、エクセルは無駄を生み出す元凶として“大活躍”している。既存のシステムから出力された帳票を読みとって、データを再度エクセルに入力して集計したり、グラフ化するといった作業が、大発生しているのだ。エクセルなら集計や資料作成が簡単にできる、との思い込みが管理職に先にあるので、入力の二度手間のロスが見落とされてしまうのだ。入力作業を安易に発生させると、入力時間の無駄だけではなく、入力ミスが発生することで、それをチェックする時間が新たに必要になったりと、“被害”はずるずると拡大していくことになる。

 実際、中小企業でエクセルを使った仕事を精査すると、カットできる無駄な仕事が50%以上を占めていることはざらなのである。エクセルは非常に扱いやすく奥が深いソフトだが、活用方法を間違えると莫大な人件費のロスにつながることを肝に銘じ、チームとしてどのように情報を共有し、資料のアウトプットを最小限に絞り込むかの算段を、チームリーダーはよく考えるべきだろう。

(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第21回 エクセルが中小企業のIT化の足を引っ張る!?」として、2002年3月25日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト

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