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事後対応のクレーム処理から先手のクレーム発掘へ

 いま、顧客満足度向上はどこの企業にとっても最大のテーマである。ホテル業、サービス業、リフォーム業、飲食業など業種を問わず、大企業、中堅・中小、ベンチャー企業など企業規模を問わずである。お客様を相手にしない商売は原則ありえないのだから、この厳しい経営環境の中、‘生涯にわたって企業とお付き合いをしてくださる顧客の創造’は、どの企業にとっても重要課題の一つであるのはもっともなことである。
 ただ、いきなりCRMシステムを導入してIT担当者主導で達成しようとしても、木に竹を接いだようなものになり結果につながりにくいことは、容易に想像していただけると思う。まずは、きちんとした‘現場力’を整備すること、頭でっかちにならず、マニュアルと感性とのバランスが取れた営業担当者を養成すること…迂遠なように見えても、こうした手順を追って‘発達段階’を辿っていかないと、企業に真の顧客満足度向上に向けた活動は根付かない。

 顧客満足度向上を進めるためにまず取り組むべき課題は、第一には‘クレーム対策’というのが私の持論である。ITに興味がある人は、きめ細かなワンツーワンの対応などにすぐに目が行くので、‘クレーム対策’などという地道なキーワードをしょっぱなに出されると、おやと思われるかもしれない。

 顧客からのクレームと一言で言っても、大きく2つに分けて考えておく必要がある。‘潜在的なクレーム’と‘顕在化されたクレーム’だ。今の世の中、クレーム対応を誤ると、場合によっては会社が倒産してしまうという実例を、最近私たちはいくつも見聞きした。自ずと顕在化されたクレームに関しては、中小企業の経営者や幹部社員も敏感になってきている。そのため、クレーム情報の共有を営業プロセスの向上、業務改善の主要テーマにかかげている会社が着実に増えている。

 ところが、大抵の中小企業は、発生したクレームに対して、事実をありのままに経営トップ層や然るべき責任者に伝え、その指示のもとに事後対応策を練ってスピーディーに解決する…こうした方向に向けて努力しているだけである。もちろんこれだけでも、きちんと実現しようとすれば大変な労力が必要である。そもそも、組織人たるもの、悪い話は極力表面に出したがらないからだ。しかし、もっと重要なのは、‘潜在的なクレーム’への対処なのである。残念ながら、ここにまで踏み込めている中小企業は、数少ないのが実情だ。

●澱(おり)のようにたまった顧客の不満を見逃すな

 ある中小OA機器販売業のY君は、自分の担当のお客様から突然落雷のごときクレームを受けた。そのお客様は電話に出たY君の部署の女性スタッフに「いつもいつも、電話すると言ってかけてこないし、約束はすっぽかすし、Yさんは何を考えているのか!」とぶちまけたのだ。Y君によれば、「お客様と電話でやり取りしていて、2、3回、お互いが会議などで行き違いになっていただけなのに」と言うのだが…。

 Y君にしたら、すれ違いがちょっと続いたくらいで、なぜそこまでお客様が激怒するのか、どうしても解せなかった。上司に相談したところ、こんなアドバイスを受けたと言う。「お客様との付き合いは半年前からだろう。そのキレ方は、最初の頃からの対応の積み重ねの結果なんだ。要するに、君の営業マンとしての信用残高が、最初の持ち点からどんどん目減りして、ついにマイナスになったということなんだよ」。

 Y君ははっと気付いた。お客様というのは、ある日突然クレームを申し立てる。営業マンにとってみれば、実にささいなきっかけで…。しかし、そのクレームは、過去からの積み上げで発生したものであり、事後対応だけあたふたしてもダメなのだと。むしろ、日頃の対応を振り返り、今後の営業姿勢全般に反映していかない限り、結局同じ事の繰り返しになるのだ。

 真のクレーム情報活用を実践するためには、この潜在的なクレームを発見して、未然に防ぐというところまで、意識を高めていかなければならない。声なき声を拾い上げ、顧客の満足度を類推して先手先手で対応する…こうした活動をIT活用で実行できれば、鬼に金棒といえる。もちろんそのためには、経営トップ以下企業としてのしっかりしたスタンス、顧客の意向をキャッチする感性に富んだ現場、それを支える有能なIT担当者がうまくかみあっていなければならない。ハードルが高い目標ではあるが、クリアすれば、他社との差別化につながるのは間違いない。

(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第25回 事後対応のクレーム処理から先手のクレーム発掘へ」として、2002年5月27日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト