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OA化とIT化はこんなに違う

 中小企業といえども、今となってはパソコンは普通に導入している。数年前では珍しかったパソコンLANも、導入率は50%は超えている。中小企業庁の統計なら、「中小企業のIT化は急速に進行中」ということになるのだろうが、はたしてそうか。
 もう随分前、正確には17年ほど前の話である。私が社会人になりたての頃、今のITブームほど全世界を巻き込んだものではなかったが、「OA化」という言葉が巷を賑わせていた。これはオフィスオートメーションの略語で、簡単に言うと、パソコンなどのOA機器を使用して業務の自動化を進めようという考えである。つまり、手書きの書類をパソコンを使って電子化するとか、手書きで電卓で計算していたものを表計算ソフトなるものを使用して自動計算するとか、何回も集計表を作成していたものを、一度入力しただけでいろいろな一連の集計表を作成するといったことである。

 ここで、IT化とOA化は違うということを説明しておく。OA化はそれ自体が一つの目的として完結しているが、IT化は単なる手段に過ぎない。IT化にはいろいろテーマがあるが、これまた簡単に一つの事例で説明すると、OA化によってつくられた電子データをパソコン上に保存しておき、組織のメンバーが再利用することである。この場合のIT化の目的は、単なる省力化を超え、メンバーが情報を共有することで、組織の意志決定や動きを質的に変化させ、経営そのものをレベルアップさせることである。

文書の共有ができていない企業が大半
 こういう風に説明すると、IT化云々の議論をちんぷんかんぷんで聞いていた人でも、なるほどと納得してくれる。しかし、言うは易く行うは難し!中小企業のIT化の現実の問題や悩みを聞いていくと、不思議なぐらい皆同じような悩みを抱えている。たいていは、社長がこう嘆くのである。「パソコンを導入してLAN化も行い、社員にどんどん使うようにと叱咤激励してきたのだが…。よくよく見てみると、無駄のオンパレードなんです」。

 例えば、こういうケースがあった。ある会社で営業スタッフにパソコンを支給、見積書や提案書はそれまでの手書きを改めて、全員にパソコンで作成するようにさせた。年輩の管理職を含めてほとんどの部員がキーボードを打てるようになったので、経営者は上々の首尾と判断、最初のうちは何も気に留めていなかった。ところが、日が経つに連れ、誰が考えても明らかにおかしい、無駄なことをしているのでは…と気付いてきた。

 要するに、営業スタッフそれぞれが、似たような見積書や提案書を自分が専用で使用するパソコンで別々に作っているのである。ひどいときには、隣同士で同じような書類を一生懸命作っている。これでは、LANにしている意味がほとんどない。文書を共有するという考えが端から存在しないからである。

 手書きの文書を共有することなど普通は考えない。そこにOA化とIT化を一気に進めようとしても、結果は見えているのだ。では、どうすれば良いか。第一歩は、文書を共有するとはどういうことかという、業務改革の基本の心構えと手順を、管理職を中心に植え付けることである。その手続きについては、稿を改めて説明したい。

(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第8回 OA化とIT化はこんなに違う」として、2001年9月7日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト

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