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IT担当セクションを‘日陰者’にするな

 仕事がら、私はいろいろな企業にお邪魔してはIT活用の改善作業をお手伝いしている。当節は大手・中堅企業はもちろんのこと、中には中小企業であってもIT関連の専属セクションを置いているところも少なくなく、「ああ、隔世の感だなあ」という思いを強くする。10年前だったらそういうセクションは「電算室」などと呼ばれていたりしていて、他の部署の人間からは「一体、どんな仕事しているんだ」というような目で見られていたものだ。
 実は私も新入社員だった当時は、某大手ゼネコンの電算室に配属され、そうした一種の疎外感を常に感じていたように思う。事実、電算室にはこれといったジョブローテーションが存在していたわけでもなかったし、経理や総務といった事務系の仕事と比べて、やはり特殊な仕事だったろうと思う。地味で、そして完全な裏方。それが今では「戦略情報システム室」とか「経営企画室」とかいった華々しい名前を与えられていたりするのだから、変われば変わるものである。

●IT担当者の悩みは10年前と同じ?

 しかし、最近になって「今のIT関連セクションの担当者も、10年前と同様に疎外感を味わっているのではないか?」と考えるようになった。というのは、当のシステム担当者を始め、他部署の人間に突っ込んだ話を聞いてみると、どうも両者の軋轢は依然として存在しているからである。しかも、その構図は10年前とまったく同じだ。「技術者としての意識やプライドが高いIT担当者」と「それについていけない他部署の人間」という対立関係である。

 IT関連セクションの認知度は格段に高まっているし、その重要度も理解されてきている。少なくとも私はそう考えてきた。だが、もしかしたらそれは表層的な判断に過ぎなかったのかもしれない。どうやら人間の意識の本質的な部分は、10年やそこらではそう簡単に変わるものでもないようだ。ひどいところになると、ブームに乗ってITセクションを設置したのはいいものの、そこが何をやっているのかは社長ですら把握していない、という企業もあった。トップがそうなら社員はどうか?推して知るべしであろう。

●あらゆる手段で「ITセクションの孤立化」を防げ

 ITセクションと他セクションとの間で生じる軋轢。それは特にシステム導入後、つまり運用サポートといったフェーズで問題を生じさせる。IT担当者は言う。「十分に説明した。サポートもしっかりやっているはずだ」。他セクションの社員は思う。「一方的な説明だし、だいたい使う側のことを考えていない。質問しても『何度も同じことを聞くな』というような態度を取る」。

 双方とも言い分はもっともなのだが、同じ会社の社員なのにびっくりするぐらいのズレが存在している。これはIT担当者・他セクションの社員ともに、「電算室(あるいは“戦略情報システム室”でもいいが)は特別な専門職」という意識を未だに根本に持っていることの裏返しとも言えよう。結果、両者の溝はますます深まり、せっかくのIT投資もまるで回収できなくなる、という悪循環だけが残される。

 これは、何も中堅・中小企業に限ったことではないようだ。『日経コンピュータ』2001年10月8日号に、“リストラの嵐に沈む情報システム部門”という興味深い記事が掲載されている。その記事によると、石油・商社・鉄工など、日本を代表する大企業ですら、IT関連セクションはこの10年間一貫してリストラの対象となってきたようだ。社内の専従スタッフを極力減らし、外部のIT専門企業にアウトソーシングを行なってきた結果、IT部門は実力のない組織になってしまった、という。

 ノウハウのない、名ばかりのIT部門では、社内のユーザー部門との調整もうまくできないばかりか、ITベンダーの提案内容についても正しく検討できるかどうか分からない。まして、社内の骨太い経営計画策定に参加するなど夢物語だ。“ITがこれからの企業のあり方を劇的に変える”といわれ、設備投資額は表面上は増えているが、ITを担う人材はどんどん社内の片隅に追いやられている、というのが日本企業の実情なのだ。これが、国際競争において、日本企業が地滑り的に競争力を失い、今の日本を停滞させている大きな要因のひとつだろう。それでも、IT化は避けて通れない。

 大企業でさえこのような状況である。中小企業はどうすればいいのか。まず、経営者自身がIT化の必要性について改めて考え直してみることだ。流行ではない、何のためのIT化なのかをきちんと整理する。ここを疎かにして部下に丸投げすれば、自ずと無責任なアウトソーシングが進むだけだ。逆に、経営者自身がITへの大きな関心を示せば、ITセクションと他セクションとの軋轢を取り除くことは十分可能だ。

 根治治療が必要なのだ。意識改革でもいい。体制改革でもいい。あらゆる手段を講じてITセクションの孤立化を防ぐ必要がある。それは時に、新たなITソリューションを導入する以上の効果を社内にもたらしてくれるはずである。“IT化の本質を理解して実行に移す。さらには部門間の軋轢にも神経を配る”。大変だが、今のIT化の現状に危機感を抱いている経営者だけが、次の時代を切り開いていけるのである。

(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第11回 IT担当セクションを‘日陰者’にするな」として、2001年11月19日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト


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