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ITに反対するのは理由(わけ)がある

 多くの中小企業で会計システム、販売管理システム、原価管理システムなどのいわゆる経営計数を把握するための基幹系システムの新規導入や再構築をお手伝いしていると、思わぬ障害にぶち当たることがある。
 社長が基幹系システムを導入し、タイムリーかつ正確に経営計数をトップや経営幹部の間で共有して、経営の舵取りをうまくやろうと考えるのはしごく当然のことである。会社の中で起こっている事実をガラス張りにすることによって、良い部分と悪い部分を明らかにし、悪い部分には勇気をもってメスを入れようというわけだ。こういう基幹システムができ上がることは、社内の誰にとっても有益に思うのだが、現実はそうではない。

 以前、工事請負系の中堅企業であった話である。販売管理のシステムを再構築すると同時に原価管理のシステムを新規に導入して、工事別の粗利をタイムリーに把握して利益向上を図りたいとの依頼を社長から受けた。

 システム構築を進める過程で、事業部長や幹部と綿密に打合せする段になって、どうもそれぞれの発言や意見の歯切れが悪い。奥歯にものが挟まったような会話になる。「そもそも、どんぶり勘定でなのがこういう工事の仕事だ」「そんなにきっちり伝票をやりとりすると、取引先に迷惑だ」「厳密に管理しても利益など増えない」などなど。驚くくらいネガティブな反応しか返ってこない。

現場の猛反発の真の理由
 確かに一理ある面もある。だが、事前に聞いていた経営幹部の話と突き合わせると、ネガティブな意見の大合唱だけというのは、どうもきな臭い。

 そもそも、経営幹部が原価管理システムを導入して計数をガラス張りにしようとしているのは、コスト構造が公明正大なものかどうかが疑わしいからである。いくつかある事業部の中でも、一番儲かっている事業部が最もあやしいと社長はにらんでいたのだ。本当はもっと儲かっているはずだ…と。そこにトップ主導でメスを入れようと言うのだから、当然反発や軋轢は生じる。

 中堅・中小企業では、あるポジションに長年にわたって同じ人物が張り付くことが多い。そして、どんどん自分の裁量権を拡大させていく。その過程で情報が秘匿され、コスト構造はブラックボックス化していきやすい。

 だが、そもそも基幹業務にITを導入して活用するということは、タイムリーかつ正確に情報や計数を把握するためである。極度の自由裁量やあいまいさは排除されなくてはならない。ましてや、不正など言語道断なのだ。正当な理由なくIT化に対して反発する社員が出てきたら、その社員の部署の計数を洗い直し、場合によっては辞めさせるぐらいの大英断をトップが下さないと、IT化は達成できない。

 IT化は、中小企業が性善説に基づいたなあなあ体質から脱皮する熱意があるのかどうかの踏み絵でもあるのだ。

(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第5回 ITに反対するのは理由(わけ)がある」として、2001年7月19日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト

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