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身近なメールの達人に仕事を学べ

 数あるITツールの中で、eメールは最も普及しているツールの1つである。標準的な連絡手段としてすっかり定着したeメールだが、実は、各自なりの使い方は様々で、我々が聞いて大いに学ばされる使い方をしている人も多い。今回は、こうした“eメールの達人”ともいえる人の事例を紹介し、eメールを極めるだけでも優れた企業内情報化を実現できることを示してみたい。


 経営コンサルタント、T氏の事例を見てみよう。T氏は、ある企業の経営者として活躍していたが、三年前に勇退したのちコンサルタントに転進した。T氏は、コンサルタントしてはまだ日は浅いが、企業経営で培われた経営感覚やノウハウを武器に、人事制度や社員教育、組織運営などの領域を専門に活動し、顧客企業から高い評価を得ている。

 そのT氏がeメールを本格的に使い出したのは、実はコンサルタントを始めてからである。もちろん、それ以前からeメールを使ってはいたが、使い方としては単に電話代わりの連絡手段に他ならなかった。言ってみれば、電話やFAXと同列のビジネスツールとして使用していたに過ぎない。

●メールで絶妙のフォローアップをする経営コンサルタント

 コンサルタントになってからは、メールは単なる連絡手段の域を超え、コンサルティングを進めるのに無くてはならないツールとなっている。やっていることは単純だ、コンサルティング先のお客様宛てに、タイミングを見計らって「その後の進み具合はいかがですか?」「前回問題になった○○○はどのように決めましたか?」などとメールを発信するだけである。

 これだけで、メールをもらったお客様はコンサルティングでT氏から示された事項を思い出し、改善が停滞している場合は改善活動を再開させ、何か問題が発生している場合はT氏への相談メールを打たせる呼び水になるというわけだ。

 コンサルティングの進め方は、一般的にはコンサルタントがお客様先を訪問し、その場で会議を開いたり現場で実態調査を行なったりしながら進める。それゆえにコンサルタントとお客様の接触頻度が改善の進み具合に大きく影響を与えがちだ。メールをうまく使うとT氏のようにコンサルタントとお客様の接触頻度を飛躍的に向上させることができる。

 もっとも、T氏が成功されているのは、T氏のコンサルタントとしてのスキルが高く、メール云々以前にお客様に信頼されているからである。お客様に信頼されていないと、メールを打っても無視されてしまうだろうし、コンサルタントとしてのスキルが高くなければ、メールを打つ内容を外したり、タイミングを的確に捉えることができずに、メールそのものが意味の無いものになってしまうだろう。

 T氏の場合は、自分のスキルレベルや信用度を十分に把握した上で、eメールを最も効果的な形で使っている。間違い無く、メールの達人である。

 次に、B氏の事例を紹介する。B氏は事務機器の販売会社で営業を担当している。B氏は、お客様と打合せを行なった後、必ず打ち合わせ議事録を作成して社内の関係者はもちろん、お客様にもメールで送付している。もちろん、お客様用の議事録からは社内向けの情報を削除して余計な話がお客様に伝わらないようにしているし、営業用に表現もかなり変えるなどの工夫は行なっている。

 B氏がこのような議事録の使い方を始めたのには理由がある。以前にお客様から打合せで頼んだものとは違うボディカラーの製品が届いたとのクレームを受けたことがあるからだ。色の表現は微妙なニュアンスが影響するための行き違いが原因だったのだが、結局言った言わないの水掛け論になり、お客様の顔を立てるためにB氏が引いて丸く納めた経験がある。B氏は、それ以後お客様との打合せ議事録を必ず作成し、お客様に提出することでトラブルを避けてきた。しかし、議事録をお客様に提出するのは、お客様から“なんだか大仰な感じがする”と言われる場合も多く、お客様の心証を悪くする場合も有り得る。

●電子メールで確認すれば、ものものしさを軽減でき、記録も残る

 ここでB氏は考えた。電子メールの利用である。お客様に対して、議事録というよりも手軽な確認文書としてメールを送る方法だ。例えば、「○○○をご発注いただき有難うございます。下記の仕様にてご注文をお請けいたしました」と、メールで発信しておけば、お客様も安心するし、お客様との約束事が文書で残り、後々トラブルが生じた場合もスムーズな解決が可能になる。

 このメールによる議事録送信を実施してから、B氏のお客様とのトラブルは皆無となったばかりか、お客様からは「B氏はキチンとした人だ」との定評をいただけるようになった。

 B氏のケースは自分の失敗をバネとして仕事の進め方を改善した好例である。自分で考え、自分で実施した改善だからこそ、大きな価値がある。メールの使い方自体は単純でも、有効度が非常に高いからだ。B氏もまた、隠れた“メールの達人”といって良いだろう。

 この2つの事例から言えることは、メールの使い方自体は特に奇抜である必要は全然ないということだ。二人とも、テクニック自体はむしろ単純と言って良いぐらいである。しかし、その有効度が極めて高い。これはメールを使う人のアナログ対応力(仕事の基本スキル、やり方を改善する力など)が高いから、メールという道具を有効に使えるのだ。道具は使う人で有効度が大きく変わってくるものである。

 あなたの身近にもこうしたメールの達人がきっといることだろう。こうした達人たちからは、メールの使い方という近視眼的なものよりも、その背景に隠されたアナログ力の高さと使い方を改善していく過程をこそ学びたいものである。

(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第75回 身近なメールの達人に仕事を学べ」として、2004年6月8日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト

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