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間接部門の人員が少ない中小企業こそ、IT資産管理を怠るな

 パソコンが家電並みの低価格になり、操作も容易になったため、社内のIT資産管理をおざなりにしている中小企業は多い。しかし、パソコンは「必ず」トラブルが起きる機械であり、トラブルが起きた後の復旧コストは普段の心がけ次第で大きく増減する。いまは様々な外部サービスが存在し、ITに詳しい社員を張り付ける必要もないのだから、余力のない中小企業こそ、IT資産管理を怠ってはならない。


 最近はインターネット家電など多機能な製品も出ているが、根本的にコンピュータとテレビやビデオなどの家電とは使用方法が異なる。家電は初めから決められた機能しか提供しない。それ以上の機能が必要な場合は、大抵の場合上位機種に買い換えるしかない。自分で部品を取り付けて機能を拡張する事が基本的にはできないからだ。しかし、コンピュータはソフトウエアという機能をユーザが自在にインストールすることができるし、最近ではネットに接続することが大前提となっている。そのため、コンピュータの機能はどんどん肥大化していく。

 これは、使う側の自由度が高いということに他ならないが、そのため家電製品と比べてソフトウエアの構造が複雑になり、トラブルが非常に多くなる。様々なベンダーが提供しているソフトウエアやフリーソフト同士がコンピュータの内部で競合し、コンピュータが起動しなくなってしまうなどのケースが日常茶飯事で発生する。近年では、コンピュータウィルスなどの猛威によりコンピュータが損害を受けることも珍しい話ではなくなってしまった。

●家電並みの価格になっても、パソコンはトラブルが起きるのが当たり前

 企業内では日々パソコンが稼働している。以前は大企業中心であったが、今日、中小企業といえども何らかの形でパソコンを使用している。パソコンが特に問題もなく順調に稼働しているときは気づきにくいが、インストールは簡単でも復旧は困難なのがコンピュータの特徴でもある。この特徴を理解せずに安易にコンピュータを使用している中小企業が実に多い。トラブルが起きたときには、時すでに遅いのがITでもある。いったん何らかのトラブルが起こると、ITの管理が日頃からなされているか否かで、復旧作業に大きくコスト差が出てくる。

 コンピュータが一人一台に割り当てられている中小企業も増えてきた。そのため、コンピュータのトラブルによって業務が停止してしまうことも多いが、中小企業ではトラブル対応や、コンピュータ、ソフトウエアなどIT資源の管理を行う人間、いわゆる「IT担当者」が在籍していない場合が多い。会社に日銭をもたらさない仕事に人件費を割くわけにはいかないという気持ちも理解できるが、専任管理者をおくか否かは別としても、現実にIT資産管理が実行されているかいないかで、トラブル発生時の復旧コストに大きく差が出てしまう。

 以前ある中小企業でこのような事例があった。その会社は社員一人一人にコンピュータを割り当て、日々発生する情報を社内で共有化していた。社員のほとんどが営業職であり、現場で発生するお客様とのやりとりや販売情報などを社内で共有し、次の営業に生かすという効率の良い運用を実現していた。

 ここまでは参考にすべきところも多いのだが、各自のコンピュータの管理は各社員に任されており、全社のIT資産を把握している人間がいないという状態が続いていた。そのため、各自のパソコンには実に様々なソフトウエアがインストールされており、各自が使用しているOS、業務ソフト、ウイルスチェッカーの有無などはまったく把握できていない状態だった。

 そのうちの一台でウイルスの被害が発生し、Windowsの再インストールを余儀なくされたのだが、ここで問題が起こった。使用していたデータはサーバーに保存していたため難を逃れたが、本来保存しておくべきOSやソフトウエアのメディア(現在ではCD-ROMとして提供されているのが主流)がどこにも見あたらないのである。かなりの時間を割いて、社内の心当たりを全て探したが見つからない。そのコンピュータを使用していた当の本人も、どこにしまい込んだか見当がつかない。また、どんなソフトウエアがインストールされていたかも完全には思い出せない。このままではコンピュータは当然使用できないが、業務上どうしても必要である。結局新たにOSとソフトウエアを購入し直し(約10万円の費用がかかった)、再インストールは完了した。だが、被害に遭う前にインストールされていたソフトウエアや独自の設定などは分からないままであり、全てを前と同じ環境にすることはできなかった。

 ともかく復旧はできたのだからと言えばそれまでだが、現実にはソフトウエアの購入費と、メディア探しに費やした無駄な時間的コストが発生しているのである。メディア探しに充てた時間に本来の営業活動を行っていれば、売り上げの機会損失もなかったかもしれない。導入当初にしかるべき場所に保管さえしておけば、コストの浪費は抑えることができたはずだ。読者の方はそんなことは当たり前だとおっしゃるかもしれないが、実はこの手の話は中小企業では度々聞く話である。

●社内のIT資産管理は難しくない

 大企業とは異なり、中小企業ではIT資産の管理が体系的に確立されていないことが多い。それは、最近のパソコンやソフト価格の下落に幻惑されて、パソコンを一台導入することが、相応のリスクとコストが発生することだという自覚に至らないからだ。

 コンピュータに限った話ではないが、普段は何の問題もなく運用できているだけに、トラブルが発生することに関してはどうしても盲目になりがちである。しかし先にも述べたが、コンピュータは一般の家電品に比べてトラブルも故障も多くて当たり前と覚悟する必要がある。また、電子化された情報資産は、トラブルが起きた時には復旧できないことも多い。以前にも本コラムにてバックアップの重要性を紹介したが、トラブルはどうやっても起きるものと肝に銘じ、普段からのIT資産の管理を社内で統一し、徹底していくべきである。

 こうした管理を実行するのに、何も深いIT知識は必要ない。例えば、多少なりともパソコンを扱える総務担当者が、社内のパソコンについては標準仕様(ハード、OS、アプリケーションソフトなど)を決め、ソフトのインストール、環境設定、動作検証、リストア作業などを一括して発注すればよいのである。そうすれば、セキュリティ確保、メンテナンスははるかに容易になり、初期購入・メンテナンス費用の節減にもつながるはずだ。こうした施策の助言は通販パソコン会社の法人営業部門、普段利用している複写機ディーラーでも請けてくれるし、必要とあらば助言してくれるコンサルタントもいる。

 さて、約3年間にわたって続けてきた連載も、今回をもってひとまず終了する。私が連載で一貫して述べてきたのは「中堅・中小企業には大企業とは異なった文化があり、そこで実施するIT施策は、大企業の真似をしても役に立たない」ということである。読者の方々が他社の動向やITベンダーのキャンペーンにいたずらに踊らされることなく、自社にとっての「適正技術」を焦らずに見極められんことを願って止まない。なお、私は今後も折にふれ、このテーマでのエッセーをブレインワークスのホームページ(http://www.bwg.co.jp/)で公開していく予定である。引き続きご愛読いただける方は、ぜひブラウザーの「お気に入り」にサイトを登録していただきたい。

(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「最終回 間接部門の人員が少ない中小企業こそ、IT資産管理を怠るな」として、2004年7月22日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト

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