“総務部・情報システム室”では業務改善はできない
そもそも中小企業の情報システム部は、現場とは切り離され、生粋の事務方の職場として存続してきている。経営者と密接な連絡を取りながら現場の業務改革を進める本来のIT化を担当するには荷が重すぎるのだ。中堅・中小企業の経営者は、そのことを理解したうえで必要な施策を打つ必要がある。
中小企業でも年商数十億円規模になると、業種にかかわらず大抵の企業には、“情報システム部”なるものは存在する。ある程度、歴史がある会社であれば、少なくとも十数年以上前から、会計、給与、販売などの管理系システムを運用するためにオフコンを導入しており、情報システム部のスタッフは、事務方の古参社員が配属されている場合が多い。そこに、一部若手が混ざっているというのがおおかたの構図だ。
●単なる事務方にすぎない中小企業の情シス部
情報システム部は、会社によって電算室と呼ぶこともあれば、システム室と呼ぶこともあり、名称は各社まちまちである。また、組織的位置付けも、総務の一セクションであるケースが多く、昨今声高に言われているが、経営陣の直轄としての戦略的位置付けで権限も有するセクションとして成立しているケースは稀である。
にもかかわらず、IT活用に躍起になっている経営トップ層は、旧態依然とした情報システム部やその部署のスタッフに過度に依存している傾向が強い。特に、先代からバトンタッチした二世経営者にこの傾向が強い。
そもそも、二世経営者は、先代の息のかかった古参の重鎮の面々に対して、色々と気を使いながら経営を推進しないといけないという、創業社長とは異質の苦労がある。このことが、IT活用推進においても、ネックになることが多い。
ある医療用品の製造販売の会社の事例であるが、長年使用してきたオフコンのリプレース時のことだ。販売管理、生産管理システムを大幅に見直すことになった。オフコンを最初に導入した際は、世の中にすぐれたパッケージもなく、ITサービス会社の言うがままに手作りで作った。従って、従来の業務フローには手を付けず、そのままシステム化した状態で10年以上利用してきている。当然、無駄な部分は多い。
3年前に、先代から引き継いだ現二代目社長は、大学を卒業後いずれは社長業を引き継ぐべく、10年間ほど武者修行を兼ねて、あるメーカーで生産管理業務など主に管理系の仕事にかかわっていた。
今回のシステムのリプレースの推進にあたっては、業務改善を同時に進めることが前提であるという現社長の方針で、情報システム部の責任者A氏に指示を出した。何社かから提案を受け入れ、責任者が集まって検討した結果、コンサルを入れて行う方法もあったが、新たなITサービス会社に丸がかえで委託した。
●情シス部の役割を見直すか、社長自らがCIOを引きうけよ
システムの構築の過程では紆余曲折はあったが、システムができあがっていざ使用する段になって、問題が発生した。一部機能は使われだしてはいるものの、円滑なシステムの活用と運用が実現すれば大きく業務改善につながる部分に関しては、全く使用されないままに半年が経った。社長は、ITサービス会社の責任者X氏に対して、システムが不完全ではないかと迫ったが、そのX氏からは社長の想定外の返事が返ってきた。
それは、情報システム部の責任者A氏を変えないと無理だと言うのだ。
具体的には、A氏は、古参の社員で生産現場や管理部門の責任者に対して、業務改善の現場での履行やシステムの導入、運用に関して明確な指針や方策を指示できていなかったのだ。
現場の責任者や担当者からは「忙しいからできない」「システムの使い勝手が悪いからシステムを使う気になれない」「説明が不十分」など、もっともらしい言い訳のオンパレードに対して反論も出来ず、かといって社長に報告するわけでもなく、ほったらかし状態であったのだ。
社長は、A氏のそういう社内調整能力の無さに薄々気付きつつも、結局中途半端な遠慮のために、見切り発車をしてしまっているのだ。
こういうケースでは、本来社長がCIO的な役割も兼務して、トップダウンで現場の協力を得ることに責任を持ち、かつ、情報システム部の責任者の力量をしっかり把握して手を打たないと、多大なシステム投資が無駄になることは明白なのだ。
こういう中途半端な情報システム部にメスをいれないままにIT化を推し進めている企業は後を絶たない。社長が事実を正しく判断をする力をつけ、責任者が力量不足と判明すれば、別のキーマンを任命するか、後は、社長自身がCIO的な立場で推進するしか成功への道はないだろう。
(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第76回 “総務部・情報システム室”では業務改善はできない」として、2004年6月23日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト