見出し画像

【よくわかる!台湾語の紹介02】台湾の言語状況と郷土言語の復興継承運動について

1)台湾の言語状況


Q:台湾では、中国語が使われているの? 台湾語が使われているの?
A:両方とも多くの人に使われています。そして、他にも、色々な言語が話されています
台湾は、20以上の民族を抱える多民族社会です。台湾での言語状況/民族状況を図にまとめてみると、このようになります(筆者作):

画像1

画像2


このように、台湾では、それぞれ自身の民族語(これを「郷土言語」といいます)に加えて、台湾語と華語(中国語)を身につけている人が、とても普遍的に見られます。このように、台湾語は、総人口の70%を占めるホーロー系の人々の母語であるだけではなく、多数派民族の言葉として民族を超えて話されていることから、「台湾を代表する言葉」という意味で「台湾語(台語/Tâi-gí)」と呼ばれているのです(台湾語のように多数派民族の言語が、共通語的に使われるのは、多民族社会には一般的なことです)。

2)台湾での言語にまつわる歴史

画像3

 台湾における言語にまつわる歴史は、大変複雑です。まず、日本が台湾を植民地にしていた1895-1945年の50年間、読み書き言語としては「日本語」が「国語」として制定され、強く推奨されました。統治期の後半になると、台湾語を始めとする各種民族語は、公の場で使用することを禁じられました。読み書き言語としては、「日本語」のみが君臨し、各種郷土言語は、家庭内や友人同士の使用に限定される状態が続いたのです。
 さらに、第二次世界大戦後、台湾を接収した国民党政府は、独裁政治を敷き、その当時誰も話せなかった中国語(北京官話をベースにした言語)を唯一絶対の「國語(グォユー)」として位置づけ、その他の言語を公の場で使うことを強く禁じました。学校内でうっかり民族語を喋った者は罰金を科せられ、「私は方言を話しました」と書かれた札(「方言札」)を首からさげて立たされました。こうした政策によって、各種郷土言語は、強く抑圧されました

 こうした状況は、1990年代まで続き、その結果、ほとんどの人が華語のみを主な読み書き言語として使うようになり、反対に、郷土言語の多くは口語にのみ限定され、衰退の危機に瀕するようになりました。
 転機は、1987年の戒厳令解除(解厳)、台湾の民主化です。そこから、ようやく、皆がそれぞれの郷土言語・文化を大切にすべきだという機運が盛り上がってきました。根強い市民運動や政治方針の転換などによって、「母語教育」が盛んになり、ようやく各種郷土言語に陽の光が当たるようになったのです。

3)郷土言語の復興継承運動について

 2020年現在、郷土言語の復興継承運動は、官民一体となって行われており、2008年以降ますます盛んになっています。各種郷土言語の教師育成に力を入れたり、台湾語・客家語・先住民族諸語によるTV局なども開局するなど、たゆまぬ努力が続けられています。
 とはいえ、どの民族語も、なかなか苦戦しています。なにせ、日本時代50年+国民党政府40年=90年もの間、強く抑圧されてきたのですから、当然です。
 それでも、なお、台湾の多くの人々は、親しい友人や家族の間では、民族語を用いて会話しています。台湾語では、きちんとした正書法に基づいた台湾語文学・雑誌なども徐々に増えてきています。私の研究対象であるブヌンの母語=ブヌン語に関しては、一年に一冊のペースで辞書が発行されたり、母語でのスピーチコンテストや合唱コンクールが度々開かれています。
 このように、台湾では、今このときも、失われつつある言語を、何とかして復興させ、継承していこうという不断の努力が行われているのです。

4)日本の皆さんへの願い


 日本の皆さんには、ぜひ、こうした台湾の各種郷土言語の復興継承運動に対して、温かい目を向け、応援してほしいと思います。台湾好きと公言し、何度も訪問していながら、「台湾といえば、中国語でしょ? ほとんどの場所で通じるんでしょ? ならそれだけでいいじゃん」と言ってのけ、全く郷土言語を学ぼうという姿勢を示さないのは、台湾の人々に対して、真の意味では理解するつもりがないことを露呈していると思います。
 もちろん、単に、「一つの国の中にいくつもの異なる言語が存在し、力が弱い方の言語にこそ、長い歴史と強い存在意義がある」という状況自体が理解し難い、というのもあるかもしれません。
 ちょっと大変かもしれませんが、ぜひ、上記のような複雑な歴史を念頭に置いて、それぞれの民族が持つ豊かな言語の世界に関心を持っていただけると嬉しいです。別にべらべら話せるようになってくれというわけではありません。ただ、台湾語をはじめとする各種郷土言語に出会ったときに、「こんなのわからない」・「しょせん消えゆく言語なんでしょ、使ってて何の意味があるの」とディスらないでほしい、というだけのことです。

 さらに、少しでいいから、「これは○○語で何というのですか?」と尋ねられたら、もっと素敵ですね。きっと、「これは○○語だと□□というんだよ、華語とぜんぜん違うでしょ!」と、キラキラした目で回答してもらえることと思います(台南や嘉義で台湾語について、南投縣信義郷でブヌン語について尋ねると、打率はとても高いと思いますw)。
 祖父 王育徳は、「言語は民族の魂である」と折に触れて言っていました。これはまさに真実で、一旦言語を失ってしまえば、民族の独自性や文化は、大いに衰退していってしまいます。台湾の持つ豊かな文化を守るためにも、台湾語・客家語・先住民族所語など郷土言語の復興促進運動を、ぜひ応援してくださいね
<本稿書き下ろし>

サポートいただけたらとても嬉しいです。どんなに少額でも、執筆活動にとって大きな励みになります。より良質の投稿や、書籍出版などの形で、ご恩返しをいたします。サポートどうかよろしくお願いいたします。