石垣りん「島」を読む

姿見の中に私が立っている。
ぽつんと
ちいさい島。
だれからも離れて。

私は知っている
島の歴史。
島の寸法。
ウエストにバストにヒップ。
四季おりおりの装い。
さえずる鳥。
かくれた泉。
花のにおい。

私は
私の島に住む。
開墾し、築き上げ。
けれど
この島について
知りつくすことはできない。
永住することもできない。

姿見の中でじっと見つめる
私—はるかな島。

 この詩は、“自己”と“自分の肉体”との関係性について謳った作品である。作者は作中で、“自分の肉体”を一つの「島」に喩えている。そして、“自己”は、その島の住民であると言うのだ。このような比喩に、表現の妙を感じる人もいるかもしれない。しかし、この詩の本当の魅力は、こうしたレトリックではなく、これらの表現を通じてなされる、ある試みにある。その試みとは、 “自己”と“自分の肉体”の関係性の不思議さを指摘するというものである。
  “自分の肉体”を、一つの「島」であると定義しながらも、作者自身、それがあくまで比喩に過ぎないことを自覚している。作者の意図は、こうした比喩の根拠を説明していくことで、読者に、“肉体”というものの不思議さに気づかせようとしているのだ。具体的には、第三連の「けれど この島について 知りつくすことはできない。
 永住することもできない。」という箇所で、読者がハッとするように仕組まれている。
 このように、作者は、“自分の肉体”を「島」に喩えることを通して、“自己”と“自分の肉体”の関係の不可思議さへの気づきを我々に促しているのだ。

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