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梅雨かな?

「ん…」
いま何時くらいなんだろう。よく眠った気がするな
背中にある体温に
「チュン太…」
ほんの少し擦り寄るとふわりとチュン太の匂いに包まれる
ふと視線だけ上げれば窓のそとはどんよりとした曇に覆われてはいるけどまだ明るい

4月の終わりはこれぞ初夏といわんばかりの陽光と陽気、都内の公園の緑も眩しくて、身バレ防止のサングラスが本来の役割もきちんと果たしてくれていたなと思う
遊園地に行って以来、芸能人とはいえ時代なのかチュン太と二人で雑踏の中歩いたり買い物に出かけたり、世間一般の人のように過ごしても混乱なんておきないし、人だかりに囲まれたりすることもないんだな
というのがわかった
チュン太はオフのたびに連れ立って出かけてくれて、俺もそれが楽しくて
だから今回のオフもまた、なんて期待もしていたのに、5月も前半にも関わらず
「梅雨みたいだな…」
しばらく続くといっていた今朝の天気予報
こんな天気になるとちょっとあの日々を思い出してしまったりもして
朝からチュン太に甘えてた

「チュン太」
「はい」
「チュン太…」
すりすりと頬を寄せるとチュン太は嬉しそうに笑い
「はい。高人さん」
キスしたい衝動を隠すことなく俺が口を寄せるとチュン太も応えてくれて
ソファで、そのあとそうかベッドに移ったんだったな
今の状況を思い出す
身を捩り向き直るとチュン太の寝顔が見えた

ぐっすり眠るチュン太を見るなんて今までもあるにはあったけど、本当に寝てた試しなんてなかったな…
かわいいよなコイツ
指先に触れるコイツの髪は見た目よりずっと触り心地がよくて好きだ
身動ぎもせずに深い眠りなんだろうことがわかる
名残惜しい気持ちもあるけど
「...腹も減ったし」
昼を食べてない腹が鳴る

コイツの腕重いな。どうしたらこんな風に筋肉がつくのだろうか。骨がそもそも違うんだろうな。俺だっていつか...いやいやそうじゃない。いまはとりあえずなにか食べたい

やっと抜け出した腕の中で
て、あれ?俺服
いつもなら寝巻きなりなんなりを纏っているものなのだけどと思いながら体を起こすとリビングに
「……はは」
脱ぎ散らかした服もそのままで、散らばったクッションが床に転がっていて
なにより下半身の張り付く感覚。中から伝うそれ
「まずはシャワーか」
名残が体の奥にある
「うわ……バリバリんなってる」
胸やら腹やら
「おあっ髪もかよ!」
全身...、まあ。このところアイツに抱かれるのが前よりずっと気持ちいいし嬉しいと思う
「チュン太...」
じわりと内側から安らぐのがわかる。身体中が温かい
ひとりじゃないことがこんなにも温かくて気持ちよくて幸せなのだと
て、いかんいかん。シャワーさっさと浴びて、今度こそちゃんとチュン太に飯を
バスルームへと急いだ

水栓を捻れば、それまで勢いよく降り注いでいたお湯も止まり、ところどころでちょっと念入りにはなったけど
「っし。シャワーも浴びたし」
意気揚々とバスルームを出る。と、えっと
「あれ?タオル??て、どこだ?」
片付いたチュン太のマンションの洗面台。いつもなら
「ここに着替えとタオル出しときました〜...て、え?」
そういえばシャワーの途中聞こえるはずのその声を聞いてない。え?と?ひとりでこの部屋にいるなんてこともある。でもバスタオルに困ったことなんてなかった...よな?
が、見渡す限りらしきものがない。どういう?
「...チュっ」
バカか!チュン太は寝てる
つい、いつもの癖で呼ぼうとして慌てて口を閉じると、ひとまず考える
「これで少しは」
手拭き用に下がっていたハンドタオルで身体の水気だけ拭って
「洗面所のどっかにあるはず...」
なのだが
「見当たらない...」
当たり前のように出されていたタオル下着着替え
「あいつ...はっ」
仕方なくざっと拭って濡れたタオルをきつく搾って髪の水気も取ると
「まあこんなもんか」
滴ることもなさそうだとリビングに戻りやはり見渡すが、そこにはバスタオルやら着替えと思しきものが見えない
「ここじゃないよなー。てなるとやっぱり寝室か...」
クローゼットもあるしと、そっと寝室のドアを開け規則正しい寝息の妨げにならないようにそろりそろ...
「っ痛!」
「高人さんっ!?」
「あ...」


「すみません...」
「…………」
謝るなっ俺が恥しい。ベッドの上のチュン太に気を取られて盛大に脛をベッドの角に打ちつけて涙目で蹲る俺は、それこそ瞬間移動したのかと言わんばかりのチュン太に抱き上げられた
「高人さんまだ体濡れてるし、髪なんて冷たい…」
慌てるチュン太を宥めることすら許されないままバスルームに連行されシャワーで温められている横では湯船に湯がみるみる溜まり
気づけば抱き抱えられて俺は
湯に潜りいたたまれなさに打ちひしがれる。チュン太のためにチュン太がいつもしてくれてるみたいに、とまではいかなくても、起きるチュン太に
「簡単なやつしかできないけど、メシ食うか?」
この一言を言おうとしてたのにっ

「俺つい寝ちゃって...」
しおっと項垂れてるチュン太が俺の肩に顔を埋めてる
「...いや俺が悪かった」
そのまま腕に抱かれて寝てればよかったなと反省する
「俺お前のことも知らなすぎるし甘え過ぎてたな…」
勝手知ったるつもりになっていたけど、その実チュン太がいかに快適に過ごさせてくれていたのだと思い知った
「いえ...」
「その...今度のマンションでは...俺も」
チュン太といっしょに住む家。チュン太と生活する場所
「なんでもかんでも教えとけとは言わないけど、洗濯も掃除も片付けもやるから」
してきたつもりでなにひとつできてなかったことも、コイツとならそれすらも楽しみだからと
「はい!」
バサッと広がる羽根を感じながら、俺もまた羽根が生えた気になった



「…ところで、お前いつそれをここに揃えてた?」
「え?ありましたよ」
さきほどなにもないとあちこち探し回ったバスタオルに着替えに下着がちゃんと俺とチュン太のぶん
あって

「怖い!お前怖いっっ」
「高人さーん」

コイツを俺が知り尽くすことなんてあるのか?という不安に一気に生えたはずの羽根が抜け落ちた

おしまい


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