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美ヶ原高原から王ヶ頭ホテルへ

 美ヶ原高原の道の駅から山本小屋へは後少し。雲の中、車のライトをつけ進んでいく。
 
 ドライブはここで一時中止となった。美ヶ原高原から王ヶ頭ホテルへは自家用車では乗り入れ不可なのである。目的地は国立公園の管理下にあった。

 ホテルまでは歩いても1時間半程度とのこと。私はこの日のため、トレッキング用のウェア、シューズ、リュックにストックと準備万端、歩く気満々だった。しかし、私の荒い運転での車酔いと標高2000メートルでの軽い高山病で皆、グッタリ。私以外の家族はトレッキングできる状態ではなくなってしまていた。私だけ歩き、残る3人はホテルのバス利用でも良かったのだが、母の私が旅先で弱った3人と別行動とはいかないのだ。仕方ない、山本小屋からホテル行きのバスを待つことにした。 
 
 1時間ほど、家族を休ませ山本小屋の周辺を散策しバスの出発を待った。ラッキーなことに雲が減り晴れてきた。青空の下に広がる王ヶ頭まで続くなだらかな歩道が見えた。歩いてホテルを目指す旅人を眺めては、私はため息をついていた。本当は歩きたかった。 

 地平線を眺めていると微かに思い出された君と草原を歩いたあの日。人気のない霧の中は少し怖かったが少年時代にボーイスカウトで逞しく育っだ君となら心強かった。時々、すれ違うハイカーと挨拶を交わしたことは覚えているのに、二人の会話は思い出せない。なぜだろう。

 王ヶ頭ホテルのバスが山本小屋の駐車場に到着した。荷物を預け家族4人でバスに乗り込んだ。窓際の席から草原の牛達を眺めているとテレビの電波塔が立ち並ぶ下にホテルが見えてきた。ホテルまでは後少しだ。段々と近付く美しい景色、山並みは日本とは思えない程の別世界。暫く感動に浸った。そして、このまま晴天が続き、長野の星空が見られるように、そっとお祈りした。君と旅した長野の星空に今夜出会えるようにと。山の天気は天邪鬼、どうなることやら。

 思い出したい夏の1ページ。


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