Bリーグのショットチャートを活用してみたい.
(この記事は「スポーツアナリティクスAdvent Calendar2022」に参加しています)
概要及び主結果
Bリーグの試合結果にショットチャートが追加されました.
今シーズンこれまで(2022年12月11日まで)の試合結果から,位置ごとの得点期待値を計算して図示しました.
データの少なさを補う工夫(関数近似)をしています.
主結果として下図が得られました.
Bリーグの試合結果にショットチャートが追加されました.
男子バスケットボールのトッププロリーグであるBリーグ.今シーズン(2022-2023)Webサイトがリニューアルされました.この記事では,今シーズン追加されたショットチャートに着目します.
ショットチャートでわかること
「ショットチャート」はシュートが放たれた位置と成否を図示したものです.これまでもFIBA公式大会などでは公開されていました.
https://www.fiba.basketball/jp/basketballworldcup/2019/game/0409/USA-Japan#|tab=shot_chart
NBAでも計測されており,近年シュート位置が変化している(具体的には,少し遠めの2ポイントシュートが激減している)ことが可視化されています.
NBAのショットデータはいくつか公開されており,それを活用すると位置ごとの成功率と得点期待値を求めることができます.以下に公開されているデータとそこから計算した期待値を図示します.
ゴール上をエンドラインと並行に通る直線上でのフィールドゴール成功率および得点期待値も図示します.得点期待値が1を超えるのはゴール近く(ペイントエリアでも縁に近いと1.0を下回ってしまう)および3ポイントエリアです.
バスケットボールのシュートはリングにボールを上から通すことです.目標物に近ければシュートが成功しやすい(ボールを放つ瞬間の角度や速度について,大きな誤差が許容される)ので,基本的には遠くなるにつれて単調に成功率は低下します.
バスケットボールには3ポイントシュートという革命的なルールがあります.そのラインより遠くだとシュートが2点から3点に不連続に変化します.成功率は連続的に減少しているので,得点期待値は3ポイントラインで不連続に上昇することが分かります.その期待値がゴール下に匹敵するため,近年のバスケットボールではゴール下または3ポイントの2択をいかにうまく選択できるのか,が攻撃戦略の基本となっています.
B1リーグのショットデータ
今シーズン開幕から12月11日までのショットデータをWebサイトから抽出しました.成否を色で示したのが下図です.この時点で2万8千本のシュートが記録されています.
NBAのデータでは位置ごとに成功確率を計算してうまくいったように見えましたが,B1のデータでは少し変な見た目になります.
これはBリーグでのショットデータがまだ少なく,位置によってはシュートが記録されていないことが原因です.(先ほどのNBA3シーズンのデータは60万本(!)のシュート位置と成否が記録されています)
そこで,シュート成功率をゴールからの距離と角度の関数と仮定し,その関数を見つけることでシュート本数の少なさを補います.数学の用語でいうと「一般化線形モデル(generalized linear model, GLM)によるあてはめ」です.
こうして得られた関数に,さらにゴールよりエンドライン側でシュート本数が少ないところの期待値を暫定的に0としてBリーグ版得点期待値を得ます.
ゴール下といわゆる「コーナー3」(コートの隅に近い3ポイントシュート)が得点期待値が高い黄色で示されています.ゴールの真横よりも少しエンドライン側まで広がっているのが面白いです.
活用方法
ボックススコアの粒度のデータだと,フィールドゴールは2ポイント,3ポイントに分類されている程度で,それらの位置がどうであったのかの情報が活用できませんでした.ショットチャートが公開されたことで,シュート位置の分布とその質を分析に活用できます.
一例として以下の試合を分析対象とします.
名古屋ドルフィンズ(以下名古屋D)が群馬クレインサンダース(以下群馬)にアウエーで勝利した試合です.
下の図はそれぞれのシュート(フリースローも含む)の位置ごとの成功確率をモデルで算出し,それぞれが独立であったと仮定したときに最終得点の分布がどうなるのか,を示したものです.曲線の縦が0.5となる横の値がそのシュート分布での平均得点です.したがって,この図からわかることは以下です.
群馬と名古屋Dそれぞれの得点期待値は85.54と73.77.
群馬はシュート位置から予測される平均よりも6.54点実得点が少ない.
名古屋Dはシュート位置から予測される平均よりも11.23点実得点が多い.
この数値からの分析では,「名古屋Dはシュート位置の質とその合計(量)では下回っていたが,位置以外の要素(実はフリーの回数が多かった/シューターの調子が良かった/運が良かった)によりかなり多く実得点を挙げることができた」と言えます.
オマケ
残り時間と点差から予測される勝率(win probability)も工作しているので(以下サイト参照),各試合のWin probabilityの推移も作図できます.
ボールポゼッションを加味していないので終盤の値が結構直感と反する怪しい値を取っていますが,そのあたりは検討中の事項です.
このあたりを活かして論文を書いたり,どこかから技術相談を受けたりできればいいなぁ,とぼんやり考えております.